アダムを噛んで、熱を吸う
翌日の昼休み。
机を寄せ合い、心と結衣が弁当を広げる。初等部からこの学校の空気を吸い続けてきた、生粋の内部生たちだ。

私は紙パックのストローを指先で弄りながら、何気なく切り出した。

「ねえ、ちょっと聞いてよ。心当たりのない熱愛報道が出てるんだけど」
「あー、速水のこと?」

結衣が食い気味に反応して笑う。
身近な人間が当然のように知っている事実に、私はわずかに驚いた。

「知らない?A組の 」
「わかんない、イケメン?」
「顔はね」

その含みのある言い方。

「中学の時モテてたけど、まじ愛想悪すぎて闇深い」
「やば、厨二病?」

心がケタケタと笑い、箸を持った手で私を指さした。

「でもまじお似合いなんよなあ、最近結婚した深田ゆみと角田大輝みたいな。アンニュイカップルって感じ」

映画の共演をきっかけに結ばれた二人は、どこか似た雰囲気を纏っていることで有名だった。
心は卵焼きを口に運ぶのを止め、じっと私の顔を覗き込んできた。

「このお人形みたいな感じがなあ」
「えー、私そんなに無表情じゃないでしょ」

両手の指で口角を引き上げ、歯を見せて笑ってみせる。すると心が私の頬を両手で押さえ、上がった口角を指で押し下げた。

「いや、でも2人並んだら絶対映えるよ。PV撮れそう」
「えー、知らない奴と勝手に組ませないでよ」

私がため息混じりに笑うと、それまでスマホの画面をなぞっていた結衣の指が止まり、彼女は勢いよく立ち上がった。

「あ、ちょうど隣のクラスに用事があったんだ。ノート返すの忘れてた」
「え!ひこひこ」

心が口に物を入れたまま立ち上がる。
私は一瞬の間のあと、まとわりつくような気だるさを振り払うようにして、のろのろと重い腰を上げた。
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