あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
大げさでもなく、恩着せがましくもなく、さりげない。

こういう気遣いのできる男は珍しい。

その日の午後、役員を交えた会議があり、私は恒一も同席させた。

初日だというのに、彼は物怖じせず、必要な場面では的確に補足を入れる。

出過ぎないのに、ただ黙っているだけでもない。

空気を壊さず、自分の役割をきちんと果たしていた。

会議後、エレベーター前で一緒になったとき、彼が言った。

「勉強になりました」

「初日にしては落ち着いていたわね」

「緊張はしていましたよ」

「そうは見えなかった」

「見せないようにしていたので」

そう言って少しだけ笑う。

その笑い方まで上品で、私はなぜだか妙に意識してしまった。
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