あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
それだけの短いやり取りのはずなのに、その顔を見た瞬間、なぜだか一人で帰りたくないと思った。

「あの」

思わず声をかける。恒一が振り向いた。

「はい?」

「もし時間があるなら……食事でもどう?」

口にしてから、自分で少し驚いた。

こんなふうに誰かを誘うなんて、いつぶりだろう。

しかも相手は部下で、七歳も年下の男だ。

けれど恒一は、少しも戸惑わずに微笑んだ。

「喜んで。ご一緒します」

会社の近くの落ち着いたダイニングは、平日の夜らしくほどよく空いていた。

窓際の席に案内されて、私はようやく肩の力を抜く。

ワインを一口飲むと、張り詰めていたものが少しだけゆるんだ。

「こういうの、珍しいですね」

恒一がグラスを傾けながら言う。
< 23 / 67 >

この作品をシェア

pagetop