あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
私は顔を上げる。

目の前の恒一の瞳は、もう部下のものではなかった。

私を守ろうとする男の目と、どうしようもなく欲しがる男の目が、同時にそこにあった。

その視線を受けた瞬間、私は初めて知った。

ただ寂しいからではない。

ただ子どもが欲しいからでもない。

私はこの人だから欲しいのだと。

この人のぬくもりも、この人の未来も、この人の愛も、全部。

扉が閉まった瞬間、張り詰めていたものが、ふっとほどけた。

私はまだ紙袋を抱えたまま、恒一を見上げていた。

彼の指先がそっと私の頬をなぞる。

さっき涙を拭ってくれたその手が、今度は確かめるように輪郭をたどって、耳元へと触れた。

「……後悔しませんか」

低く問われて、私は小さく首を振った。

「後悔なんて、できない」

むしろ、今この手を離されたほうが苦しい。

そう思ってしまうくらい、私はもう彼を求めていた。
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