あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
「冷める前にどうぞ」

「……頼んでないけど」

「知ってます」

「勝手ね」

「はい。でも、部長はたぶん今それが欲しいと思ったので」

そう言って、何でもない顔で去っていく。

私はカップを手に取りながら、思わず小さく息を吐いた。

その日の夜も、残業でフロアに残ったのは私と恒一だけだった。

時計は九時を回っている。

パソコンに向かったまま資料を見直していると、恒一が声をかけてきた。

「まだかかりそうですか」

「もう少し」

「では、終わるまで待っています」

私は顔を上げた。

「待つ必要はないわ」

「あります」

「なぜ?」

「一緒に帰りたいからです」

さらりと言われて、私は言葉を失った。
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