あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
恒一が「一緒に帰りましょう」と声をかけてきても、「先にどうぞ」と笑って断る。

それが正しいのだと、自分に言い聞かせていた。

期待してはいけない。

たった一夜の熱に、人生ごと賭けるような真似をしてはいけない。

私は四十二歳で、彼は三十五歳。

しかも部下だ。何もかも、分が悪すぎる。

だからこれ以上、自分の気持ちを大きくしてはいけない。

けれど恒一は、そんな私の小さな抵抗を見逃さなかった。

その夜も、私は恒一より先に帰ろうとしていた。

フロアに残る人影はほとんどなく、時刻は九時を少し回っている。

資料をバッグにしまい、なるべく足音を立てないように席を立つ。

――今夜こそ、何も言われる前に帰る。

そう思っていたのに、エレベーターホールへ向かう途中で、背後から低い声がした。
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