あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
「美弥さん」

足が止まる。

振り向くと、恒一が真っ直ぐこちらを見ていた。

ネクタイを少し緩めたその姿は、仕事中よりもいくぶん素の男に近く見える。

私は平静を装って言った。

「まだいたの」

「いたら、だめですか」

「そういう意味じゃないわ」

「じゃあ、どういう意味ですか」

静かな問いかけなのに、逃げ道を塞がれる。

私は目を逸らした。

「……今日は先に帰るから」

「最近、ずっとそうですね」

「仕事も落ち着いてきたし、残る必要がないだけ」

「俺を避けてる」

断定だった。

その言葉に胸が跳ねる。

私はすぐに否定した。

「考えすぎよ」

「考えすぎなら、ちゃんとこっちを見て言ってください」
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