あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
その一言で、私は何も返せなくなった。

ほんの数秒の沈黙。けれどその間に、恒一は私の前まで歩み寄ってきた。

「どうして急に距離を置くんですか」

「急じゃないわ」

「急です」

「……橘さん」

「恒一です」

低く、はっきりと名前を訂正される。

その熱を感じた瞬間、私は少しだけ後ずさった。

けれど次の瞬間、腕を掴まれる。

「っ」

「逃げないでください」

強引ではない。けれど逃がさない意志だけは、はっきり伝わってくる力だった。

私は思わず声を荒げた。

「逃げてるわけじゃない」

「じゃあ、なんで俺を見ないんですか」

「……見たら、だめになるからよ」

口にした途端、しまったと思った。

でももう遅かった。
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