あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
そこで一度言葉を切り、彼は私の額にそっと自分の額を寄せた。

「誕生日の夜だって、ようやく手が届いたと思った」

「……恒一」

「あなたが欲しいのは、俺だけじゃない。俺のほうが、ずっと前から、どうしようもなくあなたが欲しかった」

胸の奥が熱くなる。

あの夜、私だけが堪えきれずに溢れたのだと思っていた。

でも違った。

彼もまた、ずっと抱えていたのだ。

私と同じように、いや、私以上に。

「だから距離なんて置かせません」

恒一は低く囁いた。

「今さら仕事の上司と部下に戻るなんて、できるわけない」

その言葉に、私の張り詰めていた心が音を立てて揺れる。

奇跡なんて起きないと思った。

たった一夜で終わる恋だと、自分に言い聞かせた。

けれど目の前の男は、そんな私の諦めを、ひとつ残らず打ち壊していく。

私はもう、逃げる理由を失っていた。
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