あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
会社では誰にも見せない顔。

部下の前では凛として、上司の前では冷静で、取引先の前では隙を見せない。

“高瀬部長”は、そんなことを言わない。言えない。

でも、誰もいない部屋では、私だってただの女だ。

「子ども、欲しいな……」

言った瞬間、自分で驚いた。口にしたことなんて、一度もなかったから。

私はしばらく黙って座っていた。時計の音だけがやけに大きく聞こえる。

「仕事はある。ちゃんとある。私、頑張ってきた」

そう確認するみたいに呟く。

けれど、そのあとに続いた言葉は、思っていたよりも弱かった。

「でも……それだけじゃ、だめなのかな」

答えてくれる人はいない。

ただ、胸の奥にずっと押し込めてきた小さな空白だけが、静かに輪郭を持ち始めていた。
< 6 / 67 >

この作品をシェア

pagetop