あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
落ち着いていて、空気の読み方を知っている男の気配がした。

「本日付で営業企画部から異動して参りました、橘恒一と申します。よろしくお願いいたします」

穏やかな口調。よく通る声。

差し出された名刺を受け取りながら、私は表情を崩さずに言った。

「高瀬です。こちらこそよろしく」

「以前から高瀬部長のお噂は伺っていました」

「悪い意味じゃないことを祈るわ」

そう言うと、彼はふっと笑った。

「もちろん、仕事のできる方だと」

軽く受け流すような言い方でも、媚びがない。

こういう男は油断ならない。

私は心の中でそう思いながら、席をすすめた。

簡単な経歴を聞くと、恒一は三十五歳。

前部署ではいくつもの大型案件をまとめ、若手育成の評価も高かったらしい。

年齢のわりに昇進が早い。たしかに優秀なのだろう。
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