手を、つないで 〜ふたりの時間〜
5.茉歩
日が傾いてきた。
夕陽の中、隣を歩く彼に見惚れてしまう。
シンプルな服装だから、背の高さとスタイルの良さが際立つ。いつものパーカー姿もカッコいいけど、今日みたいなのは新鮮さもあって、会った時から胸が鳴り続けている。
この人の横に並ぶの、私でいいんだろうか。服を買いに行く時間もなくて、家にある服を取っ替え引っ換えして、最終的には早苗ちゃんに電話で相談してしまった。
早苗ちゃんは苦笑しながらも付き合ってくれた。「茉歩は、普段ひらひらしたのは着ないから、フレアスカートとかいいんじゃない?」と提案してくれた。
ああだこうだして、決まった時には2時間も通話してしまっていた。申し訳ないから、月曜日にスイーツを持っていこう。
今日は、彼にずっと気を遣わせてしまっている。
ラーメン店の長過ぎる行列にショックを受けていたら、すぐに海鮮丼の店を代わりに提案してくれて。
そのお店では注文する時に「一つはわさび無しで」ってスマートに言ってくれて。私がわさび嫌いなのを覚えててくれて嬉しかった。
私が人混みが苦手って言ったから、人混みを避けるようなコースで歩いてくれて。人が多いところは、守ってくれるみたいに手を引いてくれて。
お礼にアームウォーマーをプレゼントしようとしたら、彼も私にプレゼントしてくれた。猫の手首ウォーマー。お互いに送り合った。これがあったら仕事が楽しくなりそう。
プレゼントを渡した後。彼は手ぶらだったから、私のバッグに入れておくか聞いたら「いや、これは……持っていたいので」と返ってきた。
『持っていたい』。なんか、凄く大事に思ってもらえてる気がした。彼を見たら、真っ赤になっていた。私もつられて顔が熱くなる。
何かおかしくて、ふふふと笑った。2人で。
冷たい風が吹き始めて、この後どうするのかなと思った。遅いお昼ごはんを食べましょう、としか話してなかった。
私はもっと一緒にいたいけど、でも彼は本当に残業続きで、ろくに休んでいないんじゃないかと思う。体を休めてほしい。
いざ、それを言おうと思うと、言葉が出てこない。
「松永さんは、どこか見たいところないですか?」
「んー……」
考える彼もカッコいい。
彼は、近くの案内図を眺める。
「コーヒー、飲みたいかな」
コーヒー。少し先にカフェがある。
「いいですね。いっぱい歩いたし、少し休みましょう」
彼は頷いた。
一緒の時間が、少し増える。思わず笑顔になってしまった。
ちょうど窓際の席が空いたので、彼に座っててもらった。海鮮丼は彼がごちそうしてくれたので、お返しにコーヒー代は私が出すのだ。
コーヒーを買って、席に向かう。彼は、頬杖をついて、外を見ている。一瞬見惚れた。こっちを見た彼と目が合って我に返り、席に向かった。
「ありがとう」
微笑む彼にもう一度見惚れた。
座って、彼はミルク入りコーヒー、私はカフェラテを飲む。
静かな時間が流れる。心地いい空気。
窓の外はもう暗くなって、ショップが明るくモールを光らせている。
外を見ていた彼が、小さくあくびをした。
その動きが可愛くて、思わず笑ってしまう。
「すいません、ここあったかいから」
そう言う彼の目はちょっと赤い。やっぱり疲れてるんだ。
コーヒーを飲み終わったら、帰ろうって言おう。
「夕飯、食べませんか?」
カフェを出てすぐに、彼が言った。
「え……」
時計を見る。まだ17時半を過ぎたばかりだ。
「あ、今じゃなくて」
モールを出て、私の家の最寄駅の近くで、ということらしい。
本当は早く帰って睡眠時間を確保してほしいんだけど、もう少し一緒にもいたい。何しろまだ17時半だし。
あ、そうか。こうすればいい。
「じゃあウチじゃなくて、松永さんの最寄り駅にしましょう」
彼がポカンとする。私は慌てて付け加えた。
「あの、私のところより大きい駅だし、降りたことないので、行ってみたいです」
半分は本当。半分は、彼の家に近い方が、早く彼を帰せるから。
「わかりました」
彼は笑顔で言ってくれた。良かった。そして、まだ一緒にいられる。嬉しい。
「ラーメンリベンジしましょう」
「ラーメンリベンジ?」
「はい。昼の」
にっ、と彼は笑った。初めて見る顔だった。