手を、つないで 〜ふたりの時間〜


 彼の家の最寄駅は、小さなお店がたくさん集まった街で、おもちゃ箱をひっくり返したみたいな印象だ。一度来てみたいと前から思っていた。
 駅を出て、周りを見ながら歩く。今日行ったショッピングモールをシャッフルしたみたい。
 この街に、彼が住んでいる。それだけで、私の場所見知りが軽くなる。
 キョロキョロしながら彼に付いていくと、昔ながらの町中華って感じのお店に着いた。
「ここ、なんでもおいしいです」
 お店に入る前に、彼が教えてくれた。にっ、と笑うさっきの顔で。わくわくしてしまう。
 店内は、見た目に違わず普通の町中華。でもおいしそうな匂いでいっぱいだ。
「ラーメンもおいしいし、定食もいいですよ」
 彼がメニューを渡してくれる。写真付き。
「わあ、どれもおいしそう」
 定食は3種。その日によってメインのメニューが違うらしい。今日は、酢豚・肉野菜炒め・八宝菜。他にご飯物やラーメンセットもたくさんある。
「あっでも、ラーメンリベンジ、ですもんね」
 メニューのラーメンのページを開く。
 と、くっくっくと聞こえてきた。彼が笑ってる。
「……すいません」
 なんで笑ってるんだろう。
 ひとしきり笑って、落ち着いた。
「楽しそうだなって、思って」
「え……」
 私のこと?
「あの……気にしないでください」
 口を手で押さえて、まだ笑ってる。
「ラーメン、なににしますか?」
 よくわからないけど、とりあえずラーメンを選ぶ。初めてのお店だから、スタンダードな醤油ラーメンにした。彼は醤油ラーメン大盛り。
 彼は、笑いながら注文をして、笑いながらセルフサービスの水を持ってきてくれた。
 私のことで笑ってるんだよね……私、なにか変なのかな。
 ちょっと不安になってたら、カウンターの下で、彼が手を重ねてきた。
「すいません」
 彼は頭を寄せて、こそっとささやく。
「小さい子みたいで、可愛かったから」
 胸の奥がきゅうってなった。同時に顔が熱くなる。
 彼も照れくさそうに顔を赤くした。
「……楽しんでもらえてるみたいで、良かったです」
「……はい……」
 ラーメンが来るまで、手は重ねたままだった。



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