手を、つないで 〜ふたりの時間〜
ーーーお疲れ様です
ーーーまだ起きてますか?
21:50。彼女からメッセージがきた。
ーーー起きてます
ーーー通話いいですか?
ベッドに寝転んでいたところを、ガバッと起き上がる。
ーーーいつでも
話せる。舞い上がった。
一拍おいて、スマホが鳴った。
「はい」
『お疲れ様です』
ああ、彼女の声だ。全身に血が巡っていく感じがする。
「お疲れ様です」
『すみません、遅くに』
「大丈夫です。どうかしましたか?」
『いえ、特にどうしたって訳じゃないですけど……』
彼女はちょっと言いにくそうに、小さな声で言った。
『ちょっとだけ、声が聞きたくて』
言葉に詰まった。こんな風に彼女が言うのは初めてだった。
今までは、大抵我慢できなくなるのは俺だったから。
『あの、すぐに切りますから』
「いや切らないでください。話せます」
彼女が少し笑った。
『今、家ですよね?さすがに』
「家です。俺の方は今、落ち着いてるので」
『良かった。松永さん、時々この時間も仕事してるから』
心配してくれてるんだな、と嬉しくなる。
「そちらはどうですか?順調?」
『はい、概ね。課題は、私の人見知りですね』
彼女の人見知りはひどいらしい。と本人が言っていた。にこにこしてる裏側は、緊張し過ぎて倒れそうなんだそうだ。
「対外的には、中森さんなら問題ないはずですよ。自分の内側ですよね、問題は」
『はい……頑張ってはいるんですけど、消耗が激しくて』
ああ……そばにいれば、フォローしたり、リカバリーしたりできるのに。
『でも、あの手首ウォーマーにだいぶ助けられてます』
「手首って、あの猫?」
『はい。着けてないんですけど、鞄に入れて、連れてってるんです。なでると落ち着くので』
俺と同じことをしてる。
「俺も、です。アームウォーマー、見るだけで、落ち着きます」
彼女が息を飲むのが聞こえた。
『……嬉しいです。ありがとうございます』
「こちらこそです……」
思い出す。つないだ手。抱きしめた時のやわらかさ。あったかくて、離したくなかった。
『もうすぐで、戻りますから』
「予定では水曜日でしたよね」
『はい。多分予定通り帰れると思います』
あと2日。明後日に、会える。
『お土産買っていきますね』
正直、お土産なんかより。
「……お土産は、無理しなくていいです。中森さんが無事なら」
彼女はあははと笑った。
『松永さんも、無理しないでください』
「わかりました」
そして、いつも無言になる。切りたくなくて、つい黙ってしまうのだ。
『……じゃあ』
「……はい」
『おやすみなさい』
「おやすみなさい」
通話が切れる。淋しい。今すぐ会って、直接声を聞いて、触れたい。
……落ち着こう。こんなんじゃ、実際会った時には理性が飛んでしまう。
あと2日。明後日には、会えるんだ。
そう思うだけで、和やかな気分になれる。
疲れた彼女を癒すための方法を、考えながら眠った。