手を、つないで 〜ふたりの時間〜
駅のホーム。いつもの、1番前。
彼女は待っていてくれた。
「お疲れ様です。お待たせしました」
いつもなら、笑顔を返してくれるのに。
「お疲れ様です……」
暗い顔で、下を向いて。
怒ってる、よな。
「さっきの、ほんとすいませんでした」
「もう謝らないでください」
そこで電車が来た。乗るのかどうか迷っていたら、彼女が電車の方に歩き出す。
俺の手を引いて。
彼女から手をつないだのは初めて。心臓が、壊れるんじゃないかと思う程ばくばく動いてる。
ついていく形になった。いつものように周りからカバーしつつ、彼女を壁側に。
怒って、る、のかな。うつむいている。でも、手はつないだままだ。
そして、距離が近い。混んでるせいもあるけど、それ以上に。彼女から寄ってきてくれているみたいだ。
表情は見えない。雰囲気は……読めない。ただ、怒りは感じない。合ってるだろうか。
無言のまま、俺の最寄り駅に近付いた。彼女が顔を上げる。表情はない。でもほっぺたは赤い。
「今日は、どうしますか?」
声からも、感情は読み取れない。
「出張帰りだし、早く帰りたいかと思ってるんですけど。もし大丈夫なら、ご飯どうですか?」
そう言ったら、彼女は頷いた。ちょっとホッとした。
「じゃあ、中森さんちの方に行きましょう」
また頷く。
そして、しばらくして、口を開いた。
「……すみません……後で、ちゃんと説明します……」
「……わかりました」
怒ってはいないらしい。合ってた。良かった。
無言のまま、駅に着いて、電車を降りた。
「なに食べたいですか?」
聞くと、小さな声で言う。
「家と反対側に、定食屋さんがあるんですけど、どうですか?」
「いいですね。じゃあそこで」
笑って言ったら、彼女も少し笑ってくれた。ホッとした。
改札を抜ける時に一旦離した手は、今度は俺からつないだ。彼女はきゅっと握ってくれた。
「……変な態度取って、すみません……」
彼女はまだうつむいている。
「いや、元々は俺が悪いし」
「松永さんは悪くありません。私が勝手にすねてただけで」
すねてた?
非常階段で、ぎゅっと目をつぶった顔を思い出す。あれは……すねてたのか?
「だって、私だって我慢してたのに……」
我慢……俺と同じ我慢?あの思いを、彼女もしてたのか?
「あんなことされたら、我慢できなくなるじゃないですか……」
彼女の手に、ゆっくり力が入っていく。
「だから、どうしたらいいかわからなくなって……」
「……すいません」
空いている方の手をぐっと握って、抱きしめたいのを我慢する。ここは駅前。人通りが多い。
彼女は首を横に振った。
「私がちゃんとできてればいいのに……すみません」
それは俺の方だ。俺ができなかったから。
申し訳なくて、うつむく。彼女にそんな思いをさせるなんて。
「ご飯、食べましょう」
明るい声が聞こえた。少し無理してる感じ。
「せっかく会えたんですから。ご飯食べて、おしゃべりしましょう。そしたら、我慢しなくて良くなりますし」
彼女の言う通りだ。会えなかったからこうなった。だから今は、この時間を楽しもう。
「そうですね」
顔を上げたら、彼女の笑顔があった。
そうだ。俺はこの笑顔が見たかったんだった。
そのためなら、我慢なんていくらでもする。
……我慢しなくていい方法を、探そう。