手を、つないで 〜ふたりの時間〜
あったかい。そしてやわらかい。気持ちいい。
急に意識が浮上する。
目を開けると自分の家じゃなくて、焦る。
そうか、ここは彼女の家だ。
「え……」
座ったまま、毛布がかけられている。
体はちょっと斜めに傾いて、寄りかかっていたのは、彼女だ。
そして彼女も寝息をたてている。
俺の隣でベッドを背にして、体育座り。俺に肩を貸してくれていたらしい。
テレビの音が小さく流れている。
まさか寝てしまったのか?それで、彼女が毛布をかけてくれて、隣でテレビを見てるうちに寝てしまった、とか?
寝顔が無防備で、子どもみたいた。触りたくなる。
俺が動いたからか、彼女も目を覚ました。
「あれ……?私も寝ちゃってました」
あは、と笑う。眠そうな目。
「すみません、俺飲み過ぎたかな」
「松永さんはいつもたくさん働いてますから。お疲れなんですよ、きっと」
時計を見る。23時⁉︎
「体、痛くないですか?横になってもらえば良かったかな。気持ち良さそうだったから、起こしたくなくて。私、支えになってました」
だから隣にいたのか。
それよりも、こんなに遅くなってしまった。泊まりの用意はしてきたけど、こんな時間になる前にどうするか決めるつもりだったのに。
「お風呂の準備してきます」
彼女が立ちあがる。
「あ、えっと」
何を言ったらいいかわからなくなる。
「入りますよね?」
彼女はきょとんとしている。
「あ、うん、入るけど、いや、あの」
言葉が出てこない。
「とりあえずスイッチ押すだけなので、すぐに戻ります」
彼女は引き戸の横にあるパネルのボタンを押して、戻ってきた。座って、黙って、俺の言葉が出てくるのを待ってくれる。
俺は、深呼吸を一つ。彼女から、どんな答えが返ってきても、受け止める。
「……本当にいいんですか?泊まっても」
彼女は瞬きを一つした。俺は続ける。
「もし中森さんが、まだ準備ができてないんなら、俺は帰ります。この後、どのタイミングでも、ダメだまだだって思ったら、すぐ言ってください」
彼女は黙って聞いてくれている。
「帰っても、俺の気持ちに変わりはないです。いつまでも、俺は待ちますから。だから中森さんは、自分の気持ちを優先させてください。俺のことは考えなくて」
『いいです』って言おうとした。言えなくなった。
彼女が、俺の首に抱き付いた。
ぎゅっと、抱き付いて、動かない。
髪のいい匂いがする。やわらかくて、あったかい。
心臓がドクドク鳴る。体中に血が駆け巡るのがわかる。抱きしめたくなる。待て、まだだ。まだ彼女の答えを聞いてない。
「……えます」
「え?」
もごもごしてて、よく聞こえない。
「今、俺のことは考えなくていいって言おうとしましたよね」
頷く。その通りだ。
「考えます。だって、私だけじゃなくて、松永さんのことでもあるんですから。当然です」
彼女の腕にぎゅっと力がこもる。
「好きな人の希望は叶えたいです」
ああそうか。俺が彼女を思っているように、彼女も俺を思ってくれている。
「待ちますって言ってくれて、凄く嬉しいです。松永さんが、私のこと、大事に思ってくれてるんだなって……」
背中に手を回した。もう片方の手は、彼女の頭に。ゆっくりなでる。
「初めてが嬉しいって前に言ってくれたけど、やっぱり重たいかもしれないし、もしそうだったらどうしようって思ったけど、そうじゃないってわかって、安心しました……」
そうか、そんな不安を抱えてたのか。俺はもっとおしゃべりにならないといけないのかもしれない。
「俺は……重たいなんて思ったことないです。本当に、めちゃくちゃ嬉しいです」
なでていた手に力を込めて、抱きしめる。
「凄く光栄です」
彼女も腕をぎゅっとする。
「松永さんがいいです」
もごもごしてるけど、ちゃんと聞こえた。
「松永さんが私を大事にしてくれてるの、凄く嬉しいから……」
音楽と『お風呂が沸きました』という声が流れる。
「お風呂、入ってきてください」
それは、本当に泊まっていい、という意味だ。
俺が頷くと、彼女は腕を外した。顔は真っ赤だ。
キスしたくなったけど、今したら風呂なんてすっ飛ばしてしまうから。
頭をなでて、風呂に向かった。