手を、つないで 〜ふたりの時間〜

9.茉歩



 お風呂を出た。
 体を拭いて、迷う。
 さっき、彼は普通にスウェットを着て出てきた。でもそれは、私がお風呂に入る時間があるからで。
 私は、どうすればいいんだろう。パジャマ着る?下着は着ける?
 悩んだけど、結局普段通りに下着もパジャマも着た。髪を乾かす時間もあるし、と自分に言い訳する。
 部屋に入ると、彼は座ってテレビを見ていた。その姿はこの部屋に馴染んでいて、今日初めて来たなんて思えない。
 スウェット姿もかっこいいな、と見惚れていたら、彼が私のカップに水を入れてくれた。「はい」と自分の隣に置く。
「ありがとうございます」
 私は彼の隣に座って水を飲む。テレビはちょうどバラエティ番組が終わったところだった。彼がテレビを消した。
 静かになって、緊張してしまう。彼の顔が見られなくて、下を向く。
 彼も緊張しているみたい。空気がそんな感じ。
 手が、すっと伸びてきた。頭にぽんと置かれる。なでてくれる。
 私の大好きな、彼の手。大きくて、少し骨ばってて。あったかくて、優しい手。
「……怖いですか?」
 怖い、かな……考える。怖い訳じゃない。とにかく緊張してるだけ。
 首を横に振る。
「緊張してます。けど、怖くはないです」
 恥ずかしいけど、言う。
「松永さんだから、大丈夫というか、安心というか……」
 彼がクスッと笑った。
「そんなに信用していいんですか?」
「何言ってるんですか、もう。いいに決まってます」
 彼を信用できなくなったら、私は誰のことも信じられない。
「裏切らないように、頑張ります」
 そう言って、私を抱き寄せる。ふわっと、優しく。
「痛かったり、嫌なことがあったら言ってください。我慢しないで」
「……はい」
 彼の右手が、私のほっぺたに触れる。その触れ方が優しくて、嬉しくて、思い出した。初めてキスした時のこと。
 あの時も、彼は優しかった。私のことを1番に考えてくれた。
 今もそう。だから怖くない。
 あの時と同じように、彼の手に私の手を添える。すり、とほっぺたをつける。
 彼の顔が近付いてくる。
「好きです」
 唇を合わせる直前、彼が言った。
 体の真ん中がきゅうっとなって、彼の腕にかかっていた手に力が入った。彼の腕にも力がこもった。
 好き。大好き。
 気持ちを伝え合うように、キスは深くなっていく。
 上手く息ができなくて震えてしまった。彼が唇を離す。
「すいません……つい……」
 首を横に振ると、彼はまたキスをする。
 気持ちが溢れて止まらない。多分彼も同じ。
 少し離して、またキスをする。
 抱き寄せられて、彼はふうっと息を吐いた。
「……すいません、止められなくて……」
 私はまた首を横に振る。私も止められない。背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。
「私も、好きです……」
 声はかすかにしか出なかったけど、彼には聞こえたみたい。ピクッと反応した。
 体を離して、ベッドに座る。そして私の手を引いた。私も引かれるままにベッドに座る。
 ぎゅっと抱きしめられて、頭をなでられる。
 もう心臓は壊れそうなくらい激しく動いてる。
「楽にして。俺に……任せてください」
 頭の上で、彼の胸を通して、聞こえた。
「はい」
 頷きながら言う。顔を上げて、彼の顔を見る。不安そう。彼は、きっとまた私のことを心配してくれてる。
 だから、笑った。
「大丈夫です」
 彼は少し目を丸くして、その後、笑った。
 どちらからともなく、顔を寄せた。唇を合わせる。
 そのまま、2人でゆっくりと横になった。



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