手を、つないで 〜ふたりの時間〜
すーすー……。
穏やかな寝息が聞こえる。頭の上。
目を開けると、手が見えた。彼の大きな手。私の大好きな手。
枕と私の首の間に入って、腕枕みたいになってる。寒くないのかな。
部屋の中はまだ真っ暗。
彼と私は同じ方向を向いていた。私の後ろから、彼が抱っこするように覆ってくれている。
腕枕の反対の腕は、私のお腹の辺りで、しっかりと私を抱いている。抱き枕になった気分。
あったかくて安心する。彼は寒くないかな。
ふと、2人共服を着ていないことを再認識してしまった。それから、自分の体に残る違和感。
深くつながった時のことを思い出す。彼はずっと私を大事にしてくれた。痛くないか、怖くないか、気遣ってくれた。
目の前の、彼の手。この手で、私を優しく抱いてくれた。
思い出す。
初めて彼と会った時のこと。
入社したばかりの私は、資料をコピーしていた。
途中で紙が詰まってしまい、ディスプレイの表示に従って紙を取り除いたのに、機械はまだ詰まっていると言う。
どこだかわからなくて困っていたら、後ろから声が聞こえた。
「……やります」
無愛想だけど、声の響きに優しさを感じた。それが彼だった。
彼はコピー機の裏側を見た。私に手招きをする。
彼が示したところを見ると、ぐしゃっとなっている紙があった。彼が丁寧に引っ張り出す。
ディスプレイは元に戻って、コピーができる状態になった。
「ありがとうございます」
お礼を言って、頭を下げて。彼もぺこっと会釈して。
去り際に、彼がコピー機をなでなでした。
よしよし、がんばれ。
そう言ってるみたいだった。
コピー機がうらやましくなった。そんな風に、私も。
その日から、ずっとこの手が大好きで。
夢みたい。手をつないで。なでてもらって。抱きしめてもらって。
いつのまにか手だけじゃなくて、彼のことが好きになって。
彼も、私を好きになってくれた、なんて奇跡が起こって。
彼の方を向く。
彼は眠りながらも、私をしっかりと抱き直した。
そして。
「……まほ……」
聞き間違いかと思った。でも、そう聞こえた。
胸の真ん中がきゅっとなる。
好き。大好き。大好きよりも大好きはなんていうんだろう。
あったかくて、幸せで。
彼の穏やかな寝息と一緒に、眠りについた。