手を、つないで 〜ふたりの時間〜

 月曜日の朝。始業前、廊下で偶然彼女に会った。
「あ……」
「おはようございます」
 こんな時はどうしてたんだっけ、と思っていたら、挨拶が出遅れた。笑顔が眩しい。
「おはようございます……」
 もういつも通りじゃなくてもいいか、と思って挨拶を返す。
「お仕事終わりましたか?」
 昨日の持ち帰り仕事のことだ。
「はい、おかげさまで」
 答えると、彼女が周りを見ながら声をひそめる。
「ちゃんと寝られましたか?」
「……はい、おかげさまで」
 笑顔を交わした。
 彼女は満足そうに頷いて、部屋に入っていった。
 その背中を見送る。週末まで、頑張ろう……。
 背後から視線を感じた。
 振り返ると、高井戸と三上さん。なんで2人揃ってんだ。2人共不自然なくらいにこにこしている。
 見られた、か……。
「松永さん、おはようございまーす」
 明るい声の三上さんが、俺の横をすり抜ける。
「おはようございます……」
 追いかけるように言ったけど、多分聞こえてないと思う。さーっと行ってしまった。ドアの向こうから『まっほーおはよー』と聞こえてくる。
 残ったのは高井戸。
「松永さん、おはようございまーす」
 にこにこしてて気持ち悪い。
 高井戸は無視して部屋に向かう。
「松永さーん無視しないでー」
「うるさい、気持ち悪い、笑うな」
 背後から絡んでくる高井戸と部屋に入る。これはよくあることだから気にすることはない。
 社内で隠し通すのは、無理かもしれないな。俺が我慢できなさそうだ。




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