手を、つないで 〜ふたりの時間〜

2.航




 午後。打ち合わせが終わって戻る途中、休憩スペースにいる彼女を見つけた。
 カウンター席の端。スマホを見つめてじっとしている。見つめてるっていうか、睨んでるな。難しい顔をしてる。
 先週、打ち上げの帰りに送っていってから、会えていなかった。土日の出勤はいつものことだけど、それをいつものことにしていた自分を恨んだ。
 昼に少しだけ会えたけど、顔を合わせた程度。彼女が落としたティッシュを拾って渡した。食パンの形のティッシュケース。彼女らしくて、可愛かった。
 やっと話せる。幸い周りには誰もいない。
「……お疲れ様です」
 声を掛けたらこっちを向いた。髪が揺れる。
「お、お疲れ様です……」
 頭をなでたくなる。持っていたタブレットを握って耐えた。
「休憩、ですか」
「はっはい。あの、松永さんもですか?」
「俺は、打ち合わせが、今終わって」
 まだ周りに人はいない。でも一応声をひそめる。
「通りかかったら、いたから」
 聞かれたら、それはそれでいいと思ってはいる。ただ、彼女や周りに迷惑はかけたくないから、様子見だ。
「スマホ睨んで、どうしたのかと思って」
「あ……」
 苦笑。
「ちょっと、考えごとを」
 悩み事でもあるのか、聞きたいけど無理に言わせたくはない。
 頷いて、話題を変えようかと思ったら。
「あの、ご相談したいことがあって」
 相談?俺に?
「急ぎではないのでいつでも構わないんですけど、ちょっとお時間いただけたらなあって」
 仕事口調だけど、少しもにょもにょして言う。可愛過ぎだ。こんなの誰にも見せたくない。会社じゃなかったら抱きしめるのに。
 スケジュールを確認する。今日なら調整できそうだ。
「今日、大丈夫ですか?」
 早く会いたい、2人で。
 彼女がスマホを見る。カレンダーアプリを見て、答える。
「大丈夫です」
 良かった……。
「中森さんは定時ですか?」
「その予定です」
「俺、ちょっとまだわからないから、確認して連絡します。多分定時で帰れると思いますけど」
「わかりました。お待ちしてます」
 笑顔。癒される。
 よし、じゃあ仕事を片付けなければ。まずは進捗の確認だ。
 気が急いているからか、体が速く動く。
 席に戻って画面を開く。よし、これなら定時で帰れる。

 ーーー定時で帰れます

 今日は定時だから、会社の人間がいるかもしれない。

 ーーーホームで待ち合わせましょう。1番前で

 そして、かなり勇気のいる一文を送る。

 ーーー良かったら、食事でも

 相談だから、落ち着いて話したいだろうし。
 自分に言い訳。単に彼女と一緒に食事したいだけだ。

 ーーーわかりました

 良かった……。

 ほっと息をついたら、前方から視線。高井戸。
「……なんだよ」
「なんでもありません、松永先輩」
 先輩じゃねえ。おもしろがるな。

 自分でもひくくらいの速さでキーボードを打つ。
 時々高井戸の視線を感じたけど、構っていられない。
 ミスだけはしないように気を付けた。



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