手を、つないで 〜ふたりの時間〜



 早苗ちゃん……あなたの勘はやはり鋭いですね。
「寝に帰るだけなんで、なにもなくて」
 彼が、苦笑しながら言う。
 本当に、シンプルな部屋だった。
 玄関を入ると廊下にドアが2つ。トイレとお風呂だそう。正面のドアを開けると、左側にキッチン、そしてワンルームの部屋なのだけど。
 テレビ、ベッド、大きな机にモニターが2台。飾り無し。板張りの床以外は、黒とグレーの、がらんとした部屋だった。彼らしい部屋だな、と思った。
 真ん中にピクニックシートが敷かれてて、その上だけはカラフルだった。サンドイッチ、バゲット、フライドチキンが並ぶ。そこに、彼のリクエストで私が作ってきたトマトとアボカドのサラダを加える。
「お家でピクニックですね」
 楽しくなって言うと、彼も笑った。
 ピクニックシートとウレタン製の座布団は、昨日慌てて100円ショップで買った物なんだそう。
「とりあえず今日が凌げればいいかなって」
 彼はそう言ってから、急にごにょごにょになる。
「ちゃんとしたのは、一緒に揃えていけばいいと思って」
 私と、ってこと?見ると、彼は恥ずかしそうに笑う。
「中森さんが居心地がいいように、何がいりますか?」
「え……」
 私が居心地いいように?松永さんの家なのに。
 ぐるっと見回す。
 と、これまでは陰になってて見えなかったベッドの隅に、茶色い物体があった。
「え、これ……」
「この前見つけたんで、つい」
 彼が言って、手に取る。キウイのぬいぐるみ。私の家にあるのと同じ。
 はい、と渡されて受け取る。
「気持ちいいですよね」
 私の手の中のキウイのお腹の辺りをなでる。その手に釘付けになってしまう。
 私も、持っている手でキウイをなでた。
「そうでしょう。この子はお風呂上がりに抱きしめるのが1番気持ちいいんですよ」
「へえ……じゃあ今日やってみよう」
 なでている手を、重ねてみた。彼の手の甲は、少しひんやりしている。
「……中森さんの手は、あったかいですね」
 急に恥ずかしくなってうつむいた。彼はキウイごと私を抱きしめる。
 彼が、キウイのぬいぐるみを買っていたのが、凄く嬉しい。私もここにいていいんだって思える。彼の近くに。
 彼の手が、私の頭をなでる。気持ちいい。彼の体はあったかいし、なんだか眠くなってきちゃいそう。
「……とりあえず、食べましょうか」
 彼が苦笑して、私を離す。
「これ以上こうしてると、ちょっとまずいので」
「まずいって……?」
 聞いたら、彼は苦笑のまま顔を赤くした。
「全部吹っ飛ばしてベッド直行、になりそうってことです」
 冗談ぽく笑う。私も笑ってごまかした。
「……そ、それは……後程ってことで……」
 あはは、と2人で笑った。


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