桐生家の四兄弟と私〜義兄弟に囲まれてます〜

二階を通り過ぎ、さらに上の階へ向かう。 
三階の廊下に出ると、すぐ隼人の部屋の前だった。

思わず、足が少しだけ遅くなる。

ドアの向こうは静かで、何も聞こえない。

「……」

「どうした?」

敦兄が不思議そうに顔を覗き込む。

「ううん! なんでもない!」

慌てて笑う。
敦兄は少しだけ首をかしげたけれど、何も言わなかった。

やがて、私の部屋の前で足が止まる。

「ほら」

敦兄はスーツケースを部屋の端に置いた。

「ありがとう」

部屋を見渡す。

机も、本棚も、カーテンも——

前と何も変わっていない。

それだけで、胸の奥がほっとする。

ふと、ベッドの上に、見慣れないものがあることに気づいた。

「……ん?」

近づくと、
正直、ちょっとぶさいくなウサギのぬいぐるみが目に入った。

「……あれは?」

敦兄が私の視線を追う。

「あー」

一瞬で察した顔になる。

「こんな趣味悪ぃことすんの、一人しかいないだろ。これで女子が喜ぶと思ってるとか、ほんと浅いやつ」

「あ」

敦兄の言い方もあり、すぐ分かった。

こんな不器用なことをする人は、一人しか知らない。

ーー俊兄だ。

昔から、真面目すぎて、ちょっとだけズレてる。

でも、優しい人だ。

ふっと、口元がゆるむ。

「そろそろあいつらも帰ってくる頃だと思うんだけどなー」

敦兄ののんきな声が、後ろから聞こえた。

「あ、それなら——」

言いかけて、口を閉じる。

隣の部屋と繋がる壁を、ちらりと見た。

——隼人。

さっき会ったことを、なぜか言いそびれる。

その時。

ドタドタ、と階段を駆け上がる音がした。
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