桐生家の四兄弟と私〜義兄弟に囲まれてます〜



廊下から、ゆっくり足音が近づいてきた。

俊兄がリビングの前に姿を見せた。
制服じゃなくて、もう私服に着替えている。

「……あれ、俊兄。どこか行くの?」

「ああ。部活の顧問の娘さんの家庭教師頼まれててな」

「ふーん、そうなんだ」

俊兄は昔から成績も優秀で、先生からの信頼も厚い。

「そうだ」

俊兄がふと思い出したように言う。

「お前、腹減ってないか?」

言われて気づく。もう夕方だ。

「うん。減ったかも」

「昌枝さんが作り置きしてくれてる。冷蔵庫の二段目」

「うん、ありがと」

昌枝(まさえ)さんは昔から桐生家に来てくれている家政婦さんだ。
週に三日くらい、不定期で顔を出してくれる。

おおらかで優しくて、一緒にいるとほっとする人だ。

昌枝さんがいなかったら、この家たぶん回ってないと思う。

「俊兄はご飯どうするの?」

「ああ、俺は向こうで食べる」

「……そっか」

小さく頷く。

「あっちゃんはどうするのかな」

「あいつなら、さっき洗面所こもってたぞ」

「あー、じゃあお出かけだね」

兄二人とも出かけちゃうんだ、と思う。

……なんだか、少しだけ寂しい。

何でもないふうに言ったつもりだったけど、
俊兄が、ふと私を見る。

「……りあ?」

少し心配そうな声。

「!」

慌てて笑う。

「ううん、なんでもない!いってらっしゃい」

笑って言うと、俊兄は少しだけ安心したように頷いた。
そのまま玄関へ向かう背中を見送る。

――その直後。

廊下をばたばた走る音。

「行ってきまーす!」

颯太の声。

「え、どこ行くの?」

「友達んとこ! 帰り遅くなるから!」

「え、ちょっと――」

言い終わる前に、颯太は玄関を飛び出していた。

バタン。

ドアの閉まる音が、家の中に響く。

私はそのままキッチンへ向かい、冷蔵庫を開けた。
綺麗にラップされたおかずがいくつか並んでいた。
その上に、小さなメモ。

『りあちゃん おかえり』

思わず、ふっと笑みがこぼれる。

昌枝さんらしい。

お皿に移して温め、ダイニングの椅子に座る。
いただきます、と小さく手を合わせた。

静かなダイニング。

昔はここに、みんながいた。

わいわい騒ぎながら、ご飯を食べていた光景を思い出して――
胸の奥が、少しだけ寂しくなる。
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