桐生家の四兄弟と私〜義兄弟に囲まれてます〜
「あ……」
反射的に顔を上げる。
そこに立っていたのは——
「隼人……」
一瞬、目が合う。
ほんのわずかに、驚いたような表情。
でも次の瞬間には、何もなかったみたいに消えていた。
前より、背が伸びている。
暗めのアッシュの髪が、少し長くなっていた。
無駄のない肩のラインに、目が止まる。
思わず息を呑む。
整いすぎた横顔が、やけに大人びて見えた。
見慣れていたはずなのに、どこか遠い。
胸の奥が、小さく跳ねる。
「……隼人。た、ただいま……」
思ったよりも弱い声が出る。
「……ああ」
短い返事。
そのまま、隼人は私の横をすり抜けていく。
けれど、その返事にはわずかな間があった。
視線が、私の顔をなぞる。
……確かめるみたいに。
次の瞬間には、もう逸らされていた。
ふわり、と香水のような匂いがかすめる。
知らない匂い。
こんな匂い、前はしなかった。
胸の奥が、ひり、と痛む。
「あ、ちょっと——」
とっさに手を伸ばす。
隼人の足が、止まる。
「……なに」
低い声。
振り返った目は静かで、冷たい。
でも。
呼吸が、少しだけ浅い気がした。
「……っ」
何を言えばいいのか、分からない。
謝る?
笑う?
それとも、何もなかったみたいに振る舞う?
言葉は、どれも喉の奥で絡まった。
隼人はそれ以上何も言わず、階段を上っていく。
二段ほど上ったところで、
ほんの一瞬だけ足が止まった。
……けれど、振り返ることはなかった。
背中が、遠ざかる。
手を伸ばせば届きそうなのに、届かない距離。