冷徹社長との出張一夜は溺愛の始まりでした
ぐさりと刺さる。

言い返せないのが悔しい。

私は二十九歳。

周囲の友人は次々と結婚し、子どもを産み、休日になれば家族で出かけた写真を送ってくる。

羨ましいと思わないわけじゃない。

むしろ、思ってしまう。

私も、子どもが欲しい。

誰かと穏やかな家庭を作ってみたい。

その気持ちは確かにある。

だから今日ここに来た。

叶わない相手をいつまでも想って、立ち止まっているわけにはいかないから。

「そろそろ出るわよ」

「うん」

鏡の中の自分に、小さく言い聞かせる。

これは前に進むための日。

ただそれだけ。

見合いの席は、老舗の料亭の一室だった。

庭の見える落ち着いた和室に通されて、私は緊張で背中が固まるのを感じていた。
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