ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される
 薄暗い洞窟のような空間を進むライドに乗り込み、手元に用意された光線銃を握る。
 自分から入ったは良いものの、何をどうすれば良いのか分からないミアは、首を傾げて手元の光線銃を見ている。

「ナギサ、これってどうすれば───」

 見上げて光線銃を差し出したミアの言葉が止まる。

「ここに指を掛けて、こうして握るんです」

 ただ自分が構えている姿を見せれば良いものを、ナギサは身を寄せて実際にミアの手に触れて教えた。
 ナギサの細長い指が、ミアの指へ重なる。
 背後から包み込まれるような体勢に、ミアの肩がぴくりと揺れた。

「そ、それで……?」
「この引き金を引くと撃てます。的に当たると点数が入る仕組みですね」

 
 説明される声が耳元で震える。
 吐息が髪を掠めるたびに、ミアの心臓は嫌になるほど騒いだ。

「……ミア、聞いてます?」
「き、聞いてるわよ!」

 反射的に返した声が裏返り、薄暗い空間に響く。
 ナギサは一瞬だけ目を丸くした後、堪えきれなかったように小さく吹き出した。

「ふ、っ……何ですかその反応」
「笑わないで!」

 ミアは真っ赤になりながら振り返ろうとするが、狭いライドの中では思うように動けない。
 そのせいで余計に距離が近付き、慌てて動きを止めた。
 するとナギサも気まずそうに目を逸らし、軽く咳払いをする。

「……とにかく、敵が出てきたら撃てば大丈夫です」
「敵?」
「はい。容赦なく撃ち抜いてください」
「物騒ね!?」

 そんなやり取りをしている間にも、ライドはゆっくりと暗闇の中を進んでいく。
 不気味な機械音。
 赤く点滅するライト。
 壁に浮かび上がる怪物の影。
 どれもこれも白鷺という屋敷()の中では知り得ない光景だ。

「ひゃっ!?」

 突然飛び出してきた巨大なロボットに、ミアは思わずナギサの腕へしがみついた。

「ミア、敵! 撃って!」
「む、無理! 怖い!」
「さっきまでの勢いはどうしたんですか!」

 ナギサは笑いながら光線銃を構え、次々と的を撃ち抜いていく。
 電子音と共に高得点の表示が光った。

「わあっ! すごい!」

 趣味でしかなかったはずのゲームで褒められる日が来るなんて思わなかった。
 隣で無邪気にはしゃぐミアを見て、ナギサは密かに微笑んだ。

「私も負けてらんないわね」
「どっちが一番多く敵を倒せるか勝負ですね」
 
 何処か少年のように楽しそうに笑う横顔が、ミアの目に焼き付いて離れない。
 白鷺家で見せる執事の顔でもなく、誰かを守るために張り詰めている時の顔でもない。
 ただ純粋に、この時間を楽しんでいる顔。
 その表情を見た瞬間、ミアの胸がじわりと熱くなる。

「わ、わっ……! 何処を撃てばいいの!?」
「赤く光ってる部分です!」
「多すぎるのよ!」

 ライドが角を曲がると、派手な警報音と共に大量の敵影が壁一面へ投影される。ミアは慌てて光線銃を構えた。
 半ば悲鳴を上げながら引き金を引く。
 すると偶然命中したらしく、敵ロボットが爆発音と共に消え去った。

『Excellent!!』

 機械音声と共に高得点の表示が光る。

「えっ」
「上手いじゃないですか」
「ほ、本当に!?」

 ぱっと表情を輝かせたミアに、ナギサは思わず目を細める。
 その瞬間、真正面から巨大なボス型ロボットが出現した。

「うわっ、デカ……!」
「ミア、右! 右側のコア撃ってください!」
「こ、こう!?」

 夢中で光線銃を撃つミアの隣で、ナギサも援護するように引き金を引き続ける。
 電子音が鳴り響き、視界が派手な光で埋め尽くされた。
 やがて断末魔のような爆発音と共に、ボスが崩れ落ちる。

『Mission Complete!!』

 派手なアナウンスと共に、ライドがゆっくり停止した。

「はぁ……っ、びっくりした……」

 緊張が解けたように息を吐くミア。
 その横でナギサはモニターに表示された結果画面を見て、ふっと笑った。

「結構点数高いですよ」
「えっ、本当!?」

 身を乗り出して覗き込んだミアの肩が、こつん、とナギサへ当たる。
 やけに近い。そう意識した瞬間、先ほどまでの熱がまた胸の奥で騒ぎ始めた。

「……勝ったの、どっち?」
「僕ですね」
「えぇ!? 絶対嘘!」
「ちゃんと数字見てください」

 子供のように悔しがるミアを見て、ナギサは堪えきれず笑ってしまう。
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