ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される
 それから二人がライドを降りると、出口付近でスタッフが小さな景品を手渡してくれた。

「おめでとうございます。本日の高得点です!」

 渡されたのは、宇宙服を着たキャラクターの小さなぬいぐるみだった。
 ころんとした丸いフォルムに、ミアが「わ……」と目を輝かせる。

「可愛い……」
「欲しいんですか?」
「べ、別にそこまでじゃないけれど」

 言いながらも視線はぬいぐるみに釘付けだ。この遊園地のゆるキャラなのか、敷地内の至る所で見た気もする。見かける度にミアが目を向けていたから、やはりこういったゆるキャラは誰の目も引くのだろう。
 ナギサはそんな様子を見て、小さく笑う。

「じゃあ、あげるよ」
「……え?」

 あまりにも自然に差し出され、ミアはきょとんと目を瞬かせた。

「僕が持ってても仕方ないし」
「で、でも、ナギサが頑張って取ったものじゃない」
「ミアも戦ってた」

 ほら、と再び差し出し、半ば無理矢理ミアの手に押し付ける。
 ミアは恐る恐るそのぬいぐるみを受け取った。
 柔らかい感触。けれど、それ以上に胸を満たしていく熱の方が強い。

「……いいの?」
「はい」

 たったそれだけのやり取りなのに、どうしてこんなにも嬉しいのだろう。
 白鷺家では、欲しい物は何でも与えられた。
 高価な服も、宝石も、豪華な部屋も。
 けれど、こんな風に誰かから“自分のために”渡されたものなんて、今まで一度もなかった気がした。

「……大事にする」

 小さく呟きながら抱き締めると、ナギサは少し困ったように笑った。

「そんな大層なものじゃないですよ」
「ナギサから貰ったのが大事なの」

 言ってから、自分で何を口走ったのか理解してしまう。

「あっ……」

 ミアの顔が一瞬で熱を持った。慌てて俯くが、もう遅い。
 隣ではナギサまで目を見開いて固まっていた。

「…………」
「…………」

 妙な沈黙が落ちる。
 遊園地の賑やかな音楽だけが、場違いに明るかった。

「……そういうこと、さらっと言わないでください」

 やがて、先に長く続いた沈黙を破ったのはナギサだった。
 僅かに視線を逸らしながら、耳だけがほんのり赤い。
 それを見た瞬間、ミアの胸がきゅうっと締め付けられる。
 そんな反応をされたら、自分ばかり意識している訳じゃないのだと期待してしまう。
 ミアはぬいぐるみをぎゅっと抱き締めたまま、小さく笑った。

「……嫌なら返すけど?」
「嫌とは言ってません」
「じゃあ貰う」
「どうぞ」

 ぶっきらぼうに返しながらも、ナギサの声音は何処か優しい。
 その優しさが、今は何より愛おしかった。
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