ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される
しかし、実際にアトラクションの待機列へ並んでみると、下から見上げるジェットコースターは想像を絶する高さだった。
見上げる首が痛くなるほどの高低差。空中を複雑怪奇に捻じれ狂うレール。急降下するたびに、周囲の乗客から巻き起こる、魂が抜けたような悲鳴の連鎖。
隣のミアは「わあ、あそこから落ちるのね!」とますます目を輝かせてワクワクを隠せない様子だ。だが、それとは対照的に、ナギサはカウントダウンを待つプレイヤーのように、段階的に無言になっていった。
「……ナギサ」
「はい」
「さっきから一言も喋らないけど、顔色、すっごく悪くない?」
「……気のせいです。気のせい、というか、これは極限状態における集中力の高まりです」
嘘つけ、と突っ込みたくなるほど、全然気のせいではない。完全に余裕をなくして固まっている。
そんなナギサの分かりやすすぎる強がりを見て、ミアは堪えきれずに、ぷっとお腹を抱えて吹き出した。
「ふふっ、あはははっ! 何よそれ、さっきのアトラクションでの威勢はどうしたの」
「笑わないでくださいよ……。機械の不具合とかで、本当にシートベルトが外れて落ちたらどうするんですか。リアルにはコンティニューがないんですよ」
「落ちないわよ、大手の遊園地なんだから。見かけどおり心配性の質なのね」
揶揄うように、楽しそうに鈴を転がすような声で笑うミア。
ナギサは少し不服そうに、唇を尖らせて彼女へ視線を向けた。
しかし、ミアはふと笑うのをやめると、夕暮れに近い柔らかな光の中で、優しく表情を緩めた。
「……でも」
繋いだままの手を、少しだけきゅっと強く握りしめる。
「どんなに高くても、どんなに怖くても……ナギサと一緒なら、不思議と平気な気がするの」
それは、完全な不意打ちだった。
なんの計算もない、ミアの心の底から溢れ出た本音。
「っ……!」
ナギサは一瞬、本当に言葉のづべてを失った。
脳内の処理能力が完全にオーバーフローを起こし、顔が一気にカッと熱くなる。
観念したように視線を泳がせ、空いた方の手でぐしゃりと自分の額を押さえた。
「……そういうダメージの大きいこと、急に言わないでください」
「本当のことだもの。お前が隣にいるから、私は何処にだって行けるのよ」
何が悪いのか分からない、と言わんばかりの無邪気で真っ直ぐな瞳で返され、ナギサはますます敗北感を募らせて天を仰ぐしかなかった。
心臓が爆発しそうなほどの最高の緊張感が二人の間を包み込んだ、その時。
『はーい、次のお客様、二名様どうぞー! 前の座席へご案内しまーす!』
拡声器を通したスタッフの明るい声が、容赦なく辺りに響き渡った。
いよいよ、自分達の番。
ガタガタと音を立ててプラットホームに入線してくるコースターを前に、二人は並んで一歩を踏み出した。
見上げる首が痛くなるほどの高低差。空中を複雑怪奇に捻じれ狂うレール。急降下するたびに、周囲の乗客から巻き起こる、魂が抜けたような悲鳴の連鎖。
隣のミアは「わあ、あそこから落ちるのね!」とますます目を輝かせてワクワクを隠せない様子だ。だが、それとは対照的に、ナギサはカウントダウンを待つプレイヤーのように、段階的に無言になっていった。
「……ナギサ」
「はい」
「さっきから一言も喋らないけど、顔色、すっごく悪くない?」
「……気のせいです。気のせい、というか、これは極限状態における集中力の高まりです」
嘘つけ、と突っ込みたくなるほど、全然気のせいではない。完全に余裕をなくして固まっている。
そんなナギサの分かりやすすぎる強がりを見て、ミアは堪えきれずに、ぷっとお腹を抱えて吹き出した。
「ふふっ、あはははっ! 何よそれ、さっきのアトラクションでの威勢はどうしたの」
「笑わないでくださいよ……。機械の不具合とかで、本当にシートベルトが外れて落ちたらどうするんですか。リアルにはコンティニューがないんですよ」
「落ちないわよ、大手の遊園地なんだから。見かけどおり心配性の質なのね」
揶揄うように、楽しそうに鈴を転がすような声で笑うミア。
ナギサは少し不服そうに、唇を尖らせて彼女へ視線を向けた。
しかし、ミアはふと笑うのをやめると、夕暮れに近い柔らかな光の中で、優しく表情を緩めた。
「……でも」
繋いだままの手を、少しだけきゅっと強く握りしめる。
「どんなに高くても、どんなに怖くても……ナギサと一緒なら、不思議と平気な気がするの」
それは、完全な不意打ちだった。
なんの計算もない、ミアの心の底から溢れ出た本音。
「っ……!」
ナギサは一瞬、本当に言葉のづべてを失った。
脳内の処理能力が完全にオーバーフローを起こし、顔が一気にカッと熱くなる。
観念したように視線を泳がせ、空いた方の手でぐしゃりと自分の額を押さえた。
「……そういうダメージの大きいこと、急に言わないでください」
「本当のことだもの。お前が隣にいるから、私は何処にだって行けるのよ」
何が悪いのか分からない、と言わんばかりの無邪気で真っ直ぐな瞳で返され、ナギサはますます敗北感を募らせて天を仰ぐしかなかった。
心臓が爆発しそうなほどの最高の緊張感が二人の間を包み込んだ、その時。
『はーい、次のお客様、二名様どうぞー! 前の座席へご案内しまーす!』
拡声器を通したスタッフの明るい声が、容赦なく辺りに響き渡った。
いよいよ、自分達の番。
ガタガタと音を立ててプラットホームに入線してくるコースターを前に、二人は並んで一歩を踏み出した。