クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした
「そう。自分で、森川先生に預けたの」
千咲先輩が、頷く。
「いつも、祖母の手紙を読むたびに励まされてきた。でも、気づいたの。祖母の言葉を『逃げの口実』にしてるんじゃないかって。だから自分の言葉で、ちゃんと親と話したかったから」
千咲先輩は、森川先生を見据えた。
「先生……やっぱり手紙を返してくれませんか。逃げの口実じゃなくて、前に進む勇気として持っていたい」
千咲先輩の目が、輝いている。
森川先生は、頷いた。手紙を千咲先輩に渡しながら、「江藤さん、頑張って」と言った。
千咲先輩は自分の弱さと向き合って、前に進もうとしている。その背中を見ていたら、目の奥がじんわりと滲んだ。
*
「先生方……ごめんなさい」
私は、森川先生と御影先輩に頭を下げた。
「ルール違反を繰り返してきたことは、分かっています」
森川先生は、しばらく間を置いてから口を開いた。
「七瀬さん。あなたがやったことは、ルール違反。それは事実よ」
「はい」
「でも──誰かの痛みに気づいて、動こうとする力は、本物だと思う。これからは、その力を昼間の世界で使ってほしい」
先生の声に、責める色はなかった。
「今回のことは、私も反省している。江藤さんの気持ちに、もっと早く気づくべきだったわ」
先生が、私の肩にそっと手を置いた。その温かさが、肩から指先まで染み込んでくるようだった。
御影先輩は、少し離れたところで窓の外を見ていた。
誰も、声をかけなかった。
廊下の窓から差し込む月明かりが、先輩の横顔を細く照らしている。
やがて、先輩がゆっくりと私のほうを向いた。