クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした

「そう。自分で、森川先生に預けたの」

千咲先輩が、頷く。

「いつも、祖母の手紙を読むたびに励まされてきた。でも、気づいたの。祖母の言葉を『逃げの口実』にしてるんじゃないかって。だから自分の言葉で、ちゃんと親と話したかったから」

千咲先輩は、森川先生を見据えた。

「先生……やっぱり手紙を返してくれませんか。逃げの口実じゃなくて、前に進む勇気として持っていたい」

千咲先輩の目が、輝いている。

森川先生は、頷いた。手紙を千咲先輩に渡しながら、「江藤さん、頑張って」と言った。

千咲先輩は自分の弱さと向き合って、前に進もうとしている。その背中を見ていたら、目の奥がじんわりと滲んだ。



「先生方……ごめんなさい」

私は、森川先生と御影先輩に頭を下げた。

「ルール違反を繰り返してきたことは、分かっています」

森川先生は、しばらく間を置いてから口を開いた。

「七瀬さん。あなたがやったことは、ルール違反。それは事実よ」

「はい」

「でも──誰かの痛みに気づいて、動こうとする力は、本物だと思う。これからは、その力を昼間の世界で使ってほしい」

先生の声に、責める色はなかった。

「今回のことは、私も反省している。江藤さんの気持ちに、もっと早く気づくべきだったわ」

先生が、私の肩にそっと手を置いた。その温かさが、肩から指先まで染み込んでくるようだった。

御影先輩は、少し離れたところで窓の外を見ていた。

誰も、声をかけなかった。

廊下の窓から差し込む月明かりが、先輩の横顔を細く照らしている。

やがて、先輩がゆっくりと私のほうを向いた。
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