クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした
みんなが帰ったあと。
私は一人で図書室に戻り、電気もつけずに窓際の椅子に腰を下ろした。
校庭には誰もいない。冬の夜気が、窓ガラスを白く曇らせている。
ポケットから、月のマークが描かれたカードを取り出した。
月のマークを指でそっとなぞる。
今まで、何度も使ったカード。このカードとともに、私は夜の校舎を駆けた。誰かの涙を止めるために。誰かの笑顔を守るために。
怪盗ムーンの三つのルールは、最後まで守り通した。誰かの大切な宝物しか盗まなかった。人を傷つけなかった。そして、必ず持ち主に返した。
それだけは、胸を張って言える。
「ありがとう、怪盗ムーン」
私は、カードを『星の王子さま』の最後のページに挟んだ。
いつか誰かが、このカードを見つけるかもしれない。怖くて動けない誰かが、これを見て一歩を踏み出せるかもしれない。
私から、その誰かへ。
本を本棚に戻した。
しばらく、図書室の暗がりの中に座っていた。
怪盗ムーンは終わった。でも、誰かを助けたいという気持ちは、消えていない。ただ、形が変わるだけだ。
図書室の扉が、静かに開いた。
「ここにいたんだ」
入ってきたのは、翼くんだった。