クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした
*
──三ヶ月後。
春の陽射しが、廊下を明るく照らしていた。
生徒会室で、私は「困りごと相談箱」の手紙を読んでいた。
隣で翼くんが、別の手紙を広げている。
「美月、これ」
翼くんが、一通を差し出した。
『友達と仲直りできました。ありがとうございました』
「良かったね」
翼くんと顔を見合わせて、小さく笑う。
「美月ちゃーん、お弁当食べよ!」
凛ちゃんが、お弁当箱を抱えて入ってきた。
「今日はね、お母さんがオムレツを作ってくれたんだ」
「わあ、美味しそう!」
当たり前のお昼が、こんなに嬉しいなんて、透明人間だったころの私には想像もできなかった。
──ガラガラ!
「みんな! 美術科の高校、合格したよ!」
生徒会室のドアが開いて、千咲先輩が笑顔で入ってきた。
「ちゃんと、ご両親と話せたんですね」
「うん。怖かったけど、自分の言葉で話せた。おばあちゃんの手紙、受験の日にお守りに持っていったんだ」
「良かった……!」
「七瀬さん、本当にありがとう。あなたがいなかったら、まだ一人で抱えてたままだったかもしれない」
千咲先輩が帰ったあと、翼くんが窓の外を見て言った。
「きれいだね」
校庭の桜の木に、ピンクのつぼみがぽつぽつと膨らんでいた。もうすぐ、花が開く。
「うん」
翼くんが、私の隣に座った。
大切な人が、すぐそばにいる。
怪盗ムーンは終わったけど、誰かを助けたいという気持ちは変わらない。今度は、みんなと一緒に。堂々と。
新しい私の物語が、これから始まる。
【完】


