クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした

「私でいいの? 他にもっと一緒に回りたい人、いるでしょ?」

「ううん。俺は、七瀬さんと回りたいんだ」

翼くんが、まっすぐ私を見る。

「……ダメ?」

そんなふうに、上目遣いで小首を傾げられたら……。

「……ううん。行く」


それから私は、翼くんと一緒に校舎を回った。

メイドカフェ、ダンス発表、展示。いつもは遠くから眺めるだけの文化祭が、誰かと一緒だと景色が変わる。

「七瀬さん、これ食べてみて」

翼くんが、買ったばかりのたこ焼きを差し出す。

「えっ、いいの?」

「遠慮しないで」

一口食べると、アツアツで美味しかった。

「美味しい……」

「良かった。七瀬さんの笑顔が、見られて」

翼くんが口元をゆるめる。

私、今、笑ってたんだ。

こんなに楽しい文化祭は、初めてかも。

夕暮れの校庭。翼くんと二人で並んで、校舎を見上げる。

「楽しかった」

翼くんが、ぽつりと言う。

「前の学校では……こういうの、できなかったから」

「文化祭を、誰かと回ること?」

「うん。……七瀬さんは?」

「私も」

翼くんが、こちらを向く。

「七瀬さんって、さ」

「なに?」

「なんで、そんなに人のために動けるの?」

「自分のためだよ」

翼くんが、目を見開く。

「誰かを助けると、少しだけ前に進める気がする。優衣ちゃんの手紙を守れなかった私が、誰かの大切なものを守れたとき──」

言葉が、途中で止まった。うまく言えない。でも、翼くんは急かさなかった。

「……そういうこと」

「そっか」

「翼くんは? なんで私を手伝ってくれてるの?」
< 61 / 107 >

この作品をシェア

pagetop