クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした
「私……お金が、必要だったんです」
「どうして?」
また沈黙。今度は、もっと長かった。
「来年の、修学旅行の積立金を……使い込んじゃったんです」
翼くんが、眉をひそめる。
「毎月、封筒で集金するやつ?」
「はい……お母さんからもらった現金、集金日の前に使っちゃったんです」
「何に?」
小野田さんは、またしばらく黙っていた。それから、絞り出すように言った。
「お母さんが、立ち仕事でひざを悪くしたから。誕生日プレゼントに、本格的なマッサージ器を買ってあげたくて。私のお小遣いをコツコツためてたら、何年もかかっちゃうから……」
私の指先が、止まった。お母さんを喜ばせたかった。そのために、してはいけないことをしてしまった。
「うちは母子家庭で。お母さん、いつも一人で頑張ってて。誕生日くらい、何か特別なことをしてあげたかった」
小野田さんの声が、細く揺れる。
「一ヶ月分の五千円だけのつもりだったんです。でも、来月も、再来月も……気づいたら、自分ではどうしようもない金額になってた。積立金を使い込んだことが、学校にバレるのが怖くて……」
「だから、怪盗ムーンの名前を使って……?」
「はい……」
小野田さんは、床を見つめたまま答えた。
「図書委員をやってて、怪盗ムーンへの依頼の手紙が挟まれてるのを、見てしまったことがあって。怪盗ムーンは、みんなから信用されてる。だから、その名前を使えば信じてもらえると思って」
「小野田さん、顔を上げて」
私の声は、自分でも驚くほど低かった。
気づいたら、机の角をぎゅっとつかんでいた。指の関節が白くなっている。