クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした
「あなたのお母さんを想う気持ちは、本物だと思う」
だけど。
「誰かを泣かせて手に入れたお金で、お母さんは本当に喜ぶと思う?」
「……っ」
怪盗ムーンという名前は、昼間の私が誰にも見えない透明人間である分だけ、夜の私の全部だ。
「その名前を、汚さないでほしかった。……あなたのせいで、私はどれだけ指をさされたと思ってるの?」
机の上の「泥棒」というメモ。廊下での冷たい視線。全部、目の前のこの子のせいだ。
怒りで、のどの奥が熱い。
「美月」
翼くんが、私の隣に来た。
「無理しなくていい。許せないなら、そう言っていい」
「……私、どうしたらいいか、わからない」
「わからなくていいよ。今は、まだ」
しばらく、誰も口を開かなかった。
そのとき、小野田さんが両手で顔を覆った。声を殺して、一人で泣こうとしている。
誰にも頼れないから、泣く声さえ隠すのかもしれない。
その背中が、どこか見覚えがあった。かつての自分と、重なってしまった。
「……あなたも、ずっと一人で抱えてたんだよね。怖くて、誰にも言えなくて」
小野田さんの体が、小刻みに揺れた。
許したくない。この気持ちは、本物だ。
だけど、泣く声を殺しながら一人で丸くなっているこの背中を、このまま放ってはおけない。
私は小野田さんの隣にしゃがみ込んで、そっと声をかけた。
「小野田さん。私、あなたのことはまだ許せない。でも、あなたが『お母さんのために』って思ったその気持ちは、嘘じゃないって信じたい」
「七瀬先輩……」
「だから、宮本くんに一緒に謝りに行こう。やり直すのは、今からでも遅くないから」
「怖いです……」
「大丈夫だよ。翼くんも、一緒に行ってくれる?」
翼くんが、静かに頷いた。
しばらく、小野田さんは泣いていた。私は、何も言わずにそばにいた。