クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした

「以前、僕は……ある後輩を傷つけてしまった」

声が、低くなった。

「その後輩は、学校のお金を使い込んでいた。僕はルール通りに先生に報告した。その子が本当に困っていた理由を、一度も聞こうとしないままに。その後、彼女は登校できなくなってしまった」

先輩の話を聞いて、私の胸の奥に翼くんの顔がよぎった。

翼くんも、同じような経験をしていた。でも、御影先輩はそれでも「正しいルール」を守る側に立ち続けた。どうして──?

「僕のやり方は『正しかった』と思う。でも、誰かが傷ついた。何が足りなかったのか、今もわからない」

先輩は、私を見つめた。

「だから今度は……君には、自分で決める機会を与えたい。ルールで人を動かすんじゃなく、君自身が選ぶことのほうが大事だと思うから」

彼の言葉が、静かに胸に落ちてきた。

翼くんは、同じ経験をしたあと、ルールより先に人の気持ちを考えるようになった。

御影先輩は、同じ経験をしたあと、ルールを守り続けながらも、相手に選ぶ機会を残すようになった。

どちらも、間違いじゃないのかもしれない。

「明日の夜まで待ちます。それまでに、答えを出してください」

先輩が去ったあと、私はその場にへなへなと座り込んだ。

ひざが震えて、うまく立ち上がれない。
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