クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした

作戦会議が終わり、三人で図書室を出た。廊下には、誰もいない。

昇降口で靴を履き替えて、外に出ると冷たい夜気が頬を刺した。

「それじゃあ、また明日ね」

凛ちゃんが手を振って、先に帰っていった。

私と翼くんの、二人きりになる。

「美月」

翼くんが、立ち止まった。

「なに?」

翼くんは、ポケットから小さなカイロを取り出した。

「はい」

「え……」

「手、冷たくなってる。明日、風邪でも引いたら困るだろ」

翼くんは、カイロを私の手のひらに置くと、さっと離した。

じわりと広がるぬくもりが、指先から腕の奥まで伝わってくる。

「……ありがとう」

「明日、絶対に無事に終わらせよう」

「うん」

翼くんは、そのまま歩き出した。特別な言葉も、手を繋ぐこともない。

手のひらのカイロが温かくて、それだけで十分だった。

翼くんと別れて、空を見上げる。

月が、しんと冷えた空に光っていた。

明日、最後の夜が来る。でも、一人じゃない。

私は、そっと拳を握りしめた。
< 92 / 107 >

この作品をシェア

pagetop