国を追われましたが、文官令嬢としてセカンドライフを送ります!
それから数日後。
エリアン王城に、ルミナリアの君主リカルド国王からの親書が届いた。
──謝罪の言葉、しかと受け取った。直接お会いしたいという陛下の申し出、喜んでお受けしよう。来訪を心待ちにしている。
「人のいい国王様で助かったよ。これで容易にロゼッタへ近づくことができる」
ロゼッタの居場所が判明して以来、すべてが面白いようにうまく運んでいる。ようやく自分に運が向いてきたのだと、レオナールは親書を手に満足げな笑みを浮かべた。
「陛下、早速出国の準備を整えましょう。シャロン様にも至急お伝えしなければ」
「ああ、そのことだが……」
レオナールの言葉を遮るように、扉が勢いよく開け放たれる。
「ねえレオナール様、毎日お城の中ばかりでは息が詰まってしまいますわ。たまには、ふたりで王都に遊びに行きませんこと?」
シャロンが夫の腕に絡みついて、甘い声で囁く。
以前なら鼻の下を伸ばして頷いていただろう。けれど、レオナールは苦笑しながら首を横に振った。
「悪いが、しばらく城を空けることになったんだ。王都には君ひとりで行ってくるといい」
「どこかへ旅行に行かれるの? 自分だけお出かけなんてずるいですわ」
「うぐっ」
シャロンの白く細い指が、レオナールの腕にぎりぎりと食い込む。華奢な見た目からは想像つかない力強さに、レオナールは低く呻いた。
「ち、違う。とある領地で、今後の国の方針を決める重要な会議があるんだ」
「ふーん、そうですの」
遊びに行くわけではないとわかると、シャロンはぱっと両手を離した。
「じゃあ、お土産をたくさん買ってきてくださる? 美味しいワインとチーズにお菓子……それから新鮮なフルーツもお願いしますわね!」
「ああ、わかったよ」
レオナールがその場しのぎの返事をすると、シャロンは上機嫌な様子で執務室を後にした。
「陛下、もしやシャロン様を置いていくおつもりですか?」
宰相が戸惑い気味に尋ねる。
「あの女に頭を下げるなんて芸当ができると思うか? 私たちがロゼッタを必要としているとわかれば、手がつけられないほどかんしゃくを起こすに決まっている!」
「確かに……」
今、ルミナリア王国との間に決定的な亀裂を生じさせるわけにはいかない。
こうしてシャロンには真実を告げずに、レオナール一行はエリアン王国を発ったのだった。
うっすらとした鉛色の曇り空が広がる中、ついに互いの国王が対面する日は訪れた。
(ここがルミナリア王国か……)
豪勢な馬車の揺れに身を任せながらも、レオナールは落ち着かない様子で何度も窓の外へ視線を投げていた。
ずらりと並ぶ活気ある店並みに、人々の明るい表情。エリアン王国も決して小国ではないものの、それでも歴然たる国力の差を痛感せざるを得ない。
とはいえ、かつてのルミナリアはお世辞にも裕福な国ではなかった。
しかしながら、先王の代から始まった教育制度が国を劇的に変えた。庶民にも貴族と同等の高度な教育を施した結果、国民全体の知的水準が向上。
身分に縛られず、才ある者が専門職へと就けるようになったことで、国力が一気に底上げされたのである。
そして、昨今の魔導書の目覚ましい活躍。
今やルミナリア王国は、大陸随一の大国と言っても過言ではない。
(先代たちがそういった改革を怠ってきたツケが、すべて私に回ってきているんじゃないか。我が国だって、あの魔導書さえ使いこなせれば……)
苛立ちを叩きつけるように、レイファールは持参した飴をガリガリと噛み砕いた。
「陛下、どうかお心をお静めください。くれぐれもルミナリア国王の前では、毅然とした振る舞いをお願いいたします」
向かい側に座っていた宰相が釘を刺す。緊張のせいか表情が強張っており、わずかに声も上擦っている。
「わかっている。国王夫妻に頭を下げて機嫌を取り、ロゼッタから呪文の秘密を聞き出す。ふん、容易いことだ」
もちろん、自分を捨てた男をロゼッタが快く迎えるはずもない。
けれど、彼女はあのシャロンとは違い、公私の区別を心得ている女だ。一国の王たる自分の頼みを私情で断ることはないだろう。
レオナールがそんな甘い期待に浸っている間に、馬車はルミナリア王城の正門を潜り抜けた。到着を待っていた文官たちに案内され、国王夫妻の待つ謁見室へと足を進める。
「陛下、レオナール国王陛下と宰相殿がお見えになりました」
文官が来訪を告げると、内側から扉が小さな音を立てて開かれた。
「よくぞお越しくださった、レオナール国王陛下。ルミナリア王国を統べるリカルドだ」
「王妃、フランシスカにございます。遠路はるばる歓迎いたしますわ」
国王夫妻は柔和な笑みを浮かべ、穏やかに挨拶を口にした。
レオナールは内心で安堵し、愛想笑いを浮かべて深く一礼する。
「此度は私どもの訪問をお認めくださり、心より感謝いたします。お会いできて光栄です、リカルド陛下」
「私も同じ思いでいる。それと、宰相殿も久しいな。先王の代に幾度かお会いして以来か。健勝なようで何よりだ」
国王は悠然とした仕草で、レオナールの背後に控える宰相に視線を向けた。
「もったいなきお言葉でございます。私のような者のことを覚えていてくださり、恐悦至極に存じます」
宰相が恐縮した面持ちで頭を下げると、見計らったかのように王妃が口を開いた。
「ところで、シャロン王妃のお姿が見えませんけれど、何かありましたの?」
「出発間際に妻が動ける状態ではなくなりまして、急遽私たちのみで伺うことになりました。慣れぬ隣国への訪問を前に、緊張で体調を崩してしまったようです」
レオナールは、あらかじめ宰相と口裏を合わせていた理由を告げた。
「まあ、お体の方は大丈夫ですの?」
「はい。数日も静養すれば回復するとのことでございます。本人も直接お詫びに伺えないことを涙ながらに悔いておりました。不肖の妻に代わり、私から深くお詫び申し上げます」
レオナールがこれ以上ないほど申し訳なさそうな表情を作ってみせると、王妃は柔らかな笑みを浮かべて首を横に振った。
「茶会の件でしたら、やむを得ない事情があったのですもの。どうか、お気になさらないでくださいませ」
「寛大なるご配慮、痛み入ります。妻もさぞかし胸を撫で下ろすことでしょう」
随分と人のいい王妃だ。最大の難所を呆気なく切り抜けたレオナールはふっと肩の力を抜いた。
すると、国王夫妻の傍らにいた黒髪の青年が、一歩前に進み出た。
「エリアン王国にて宰相を務めております、エドガー・サンジェストにございます。以後、お見知りおきをいただけますれば幸いです」
「あ、ああ」
「長旅でお疲れでしょう。まずはどうぞ、お掛けになってください」
促されるまま椅子に腰を下ろしつつも、レオナールの視線はエドガーに釘付けになっていた。
(ただの従者かと思えば、これが宰相か。若いとは聞いていたが、私とあまり変わら……いや、向こうは宰相でこちらは国王だ。立場は私の方が断然上ではないか)
歪んだ優越感に浸るレオナールだったが、ふと我に返って本来の目的を果たすべく話題を切り出した。
「それにしても、ルミナリア王国の類稀なる発展ぶりには驚かされるばかりです。リカルド陛下のご慧眼と、その鮮やかな手腕に感服いたしました」
「すべては優れた臣下たちあってこそのことだ。私は彼らの言葉に頷き、書類に判を押しているにすぎん」
着飾った言葉を並べ立てて誉めそやすと、国王は謙遜する素振りを見せた。手応えを感じたレオナールは、いよいよロゼッタについて探りを入れていく。
「そういえば……近頃、貴国にはことさら優秀な文官がおられるとか。その者の知恵によって、新たな魔導書が作られたとお聞きしました」
「ほう、他国にまで知れ渡っていたとは。隠してなどいないのだから、当然と言えば当然だが」
気を悪くした様子もなく国王が笑う。
レオナールはこの好機を逃さず、慎重に言葉を選ぶ。
「実は、私の古い知人にも魔導書に造詣が深い者がおりまして……久しく顔を見ていないのですが、もしかしたらその者ではないかと気になってしまったのです。もし叶うのであれば、一度お会いさせてはいただけないでしょうか?」
狙いを悟られぬよう、あくまで知己の安否を気遣う体を装う。レオナールの申し出に対し、国王は驚くほどすんなりと頷いた。
「構わんとも。本人も此度の来訪を耳にして、是非お会いしたいと申していた」
「それは本当ですか!」
願ってもない展開に、レオナールは前のめりになって国王に尋ねた。
「ああ。若くして王座を継ぐことになった貴殿を常々案じていたようだ。……サンジェスト、ロゼッタをこちらへ」
「承知いたしました」
国王に命じられたエドガーが謁見室を後にする。
やはり魔導書作りに携わっていたのは、ロゼッタのようだ。扉が静かに閉まる音を聞きながら、レオナールと宰相は顔を見合わせ、勝利を確信したような笑みを交わした。
(しかし、ロゼッタが私に会いたがっていたとは……まさか、まだ私に未練があるのか。あるいは慣れない異国での仕事に音を上げ、助けを求めているのかもしれないな)
どちらにせよ、好都合なことに変わりはない。
レオナールはしたり顔を浮かべながら、彼女を言いなりにさせるための妙案を思いつく。
(ロゼッタを連れ帰って正妃に据えてやれば、あの女も泣いて喜ぶだろう。シャロンは……まあ、顔だけは国宝級だからな。側妃として置いておくぐらいなら構わないだろう)
シャロン以外は誰も文句は言うまい。娘を溺愛していたはずのレイファール伯爵夫妻でさえ、「もうお手上げでございます」と匙を投げている有様なのだ。
ロゼッタになんと声をかけてやろう。感動の再会に相応しい甘い言葉を吟味していると、静かなノック音がその思考を遮った。
「ロゼッタを連れてまいりました」
エリアン王城に、ルミナリアの君主リカルド国王からの親書が届いた。
──謝罪の言葉、しかと受け取った。直接お会いしたいという陛下の申し出、喜んでお受けしよう。来訪を心待ちにしている。
「人のいい国王様で助かったよ。これで容易にロゼッタへ近づくことができる」
ロゼッタの居場所が判明して以来、すべてが面白いようにうまく運んでいる。ようやく自分に運が向いてきたのだと、レオナールは親書を手に満足げな笑みを浮かべた。
「陛下、早速出国の準備を整えましょう。シャロン様にも至急お伝えしなければ」
「ああ、そのことだが……」
レオナールの言葉を遮るように、扉が勢いよく開け放たれる。
「ねえレオナール様、毎日お城の中ばかりでは息が詰まってしまいますわ。たまには、ふたりで王都に遊びに行きませんこと?」
シャロンが夫の腕に絡みついて、甘い声で囁く。
以前なら鼻の下を伸ばして頷いていただろう。けれど、レオナールは苦笑しながら首を横に振った。
「悪いが、しばらく城を空けることになったんだ。王都には君ひとりで行ってくるといい」
「どこかへ旅行に行かれるの? 自分だけお出かけなんてずるいですわ」
「うぐっ」
シャロンの白く細い指が、レオナールの腕にぎりぎりと食い込む。華奢な見た目からは想像つかない力強さに、レオナールは低く呻いた。
「ち、違う。とある領地で、今後の国の方針を決める重要な会議があるんだ」
「ふーん、そうですの」
遊びに行くわけではないとわかると、シャロンはぱっと両手を離した。
「じゃあ、お土産をたくさん買ってきてくださる? 美味しいワインとチーズにお菓子……それから新鮮なフルーツもお願いしますわね!」
「ああ、わかったよ」
レオナールがその場しのぎの返事をすると、シャロンは上機嫌な様子で執務室を後にした。
「陛下、もしやシャロン様を置いていくおつもりですか?」
宰相が戸惑い気味に尋ねる。
「あの女に頭を下げるなんて芸当ができると思うか? 私たちがロゼッタを必要としているとわかれば、手がつけられないほどかんしゃくを起こすに決まっている!」
「確かに……」
今、ルミナリア王国との間に決定的な亀裂を生じさせるわけにはいかない。
こうしてシャロンには真実を告げずに、レオナール一行はエリアン王国を発ったのだった。
うっすらとした鉛色の曇り空が広がる中、ついに互いの国王が対面する日は訪れた。
(ここがルミナリア王国か……)
豪勢な馬車の揺れに身を任せながらも、レオナールは落ち着かない様子で何度も窓の外へ視線を投げていた。
ずらりと並ぶ活気ある店並みに、人々の明るい表情。エリアン王国も決して小国ではないものの、それでも歴然たる国力の差を痛感せざるを得ない。
とはいえ、かつてのルミナリアはお世辞にも裕福な国ではなかった。
しかしながら、先王の代から始まった教育制度が国を劇的に変えた。庶民にも貴族と同等の高度な教育を施した結果、国民全体の知的水準が向上。
身分に縛られず、才ある者が専門職へと就けるようになったことで、国力が一気に底上げされたのである。
そして、昨今の魔導書の目覚ましい活躍。
今やルミナリア王国は、大陸随一の大国と言っても過言ではない。
(先代たちがそういった改革を怠ってきたツケが、すべて私に回ってきているんじゃないか。我が国だって、あの魔導書さえ使いこなせれば……)
苛立ちを叩きつけるように、レイファールは持参した飴をガリガリと噛み砕いた。
「陛下、どうかお心をお静めください。くれぐれもルミナリア国王の前では、毅然とした振る舞いをお願いいたします」
向かい側に座っていた宰相が釘を刺す。緊張のせいか表情が強張っており、わずかに声も上擦っている。
「わかっている。国王夫妻に頭を下げて機嫌を取り、ロゼッタから呪文の秘密を聞き出す。ふん、容易いことだ」
もちろん、自分を捨てた男をロゼッタが快く迎えるはずもない。
けれど、彼女はあのシャロンとは違い、公私の区別を心得ている女だ。一国の王たる自分の頼みを私情で断ることはないだろう。
レオナールがそんな甘い期待に浸っている間に、馬車はルミナリア王城の正門を潜り抜けた。到着を待っていた文官たちに案内され、国王夫妻の待つ謁見室へと足を進める。
「陛下、レオナール国王陛下と宰相殿がお見えになりました」
文官が来訪を告げると、内側から扉が小さな音を立てて開かれた。
「よくぞお越しくださった、レオナール国王陛下。ルミナリア王国を統べるリカルドだ」
「王妃、フランシスカにございます。遠路はるばる歓迎いたしますわ」
国王夫妻は柔和な笑みを浮かべ、穏やかに挨拶を口にした。
レオナールは内心で安堵し、愛想笑いを浮かべて深く一礼する。
「此度は私どもの訪問をお認めくださり、心より感謝いたします。お会いできて光栄です、リカルド陛下」
「私も同じ思いでいる。それと、宰相殿も久しいな。先王の代に幾度かお会いして以来か。健勝なようで何よりだ」
国王は悠然とした仕草で、レオナールの背後に控える宰相に視線を向けた。
「もったいなきお言葉でございます。私のような者のことを覚えていてくださり、恐悦至極に存じます」
宰相が恐縮した面持ちで頭を下げると、見計らったかのように王妃が口を開いた。
「ところで、シャロン王妃のお姿が見えませんけれど、何かありましたの?」
「出発間際に妻が動ける状態ではなくなりまして、急遽私たちのみで伺うことになりました。慣れぬ隣国への訪問を前に、緊張で体調を崩してしまったようです」
レオナールは、あらかじめ宰相と口裏を合わせていた理由を告げた。
「まあ、お体の方は大丈夫ですの?」
「はい。数日も静養すれば回復するとのことでございます。本人も直接お詫びに伺えないことを涙ながらに悔いておりました。不肖の妻に代わり、私から深くお詫び申し上げます」
レオナールがこれ以上ないほど申し訳なさそうな表情を作ってみせると、王妃は柔らかな笑みを浮かべて首を横に振った。
「茶会の件でしたら、やむを得ない事情があったのですもの。どうか、お気になさらないでくださいませ」
「寛大なるご配慮、痛み入ります。妻もさぞかし胸を撫で下ろすことでしょう」
随分と人のいい王妃だ。最大の難所を呆気なく切り抜けたレオナールはふっと肩の力を抜いた。
すると、国王夫妻の傍らにいた黒髪の青年が、一歩前に進み出た。
「エリアン王国にて宰相を務めております、エドガー・サンジェストにございます。以後、お見知りおきをいただけますれば幸いです」
「あ、ああ」
「長旅でお疲れでしょう。まずはどうぞ、お掛けになってください」
促されるまま椅子に腰を下ろしつつも、レオナールの視線はエドガーに釘付けになっていた。
(ただの従者かと思えば、これが宰相か。若いとは聞いていたが、私とあまり変わら……いや、向こうは宰相でこちらは国王だ。立場は私の方が断然上ではないか)
歪んだ優越感に浸るレオナールだったが、ふと我に返って本来の目的を果たすべく話題を切り出した。
「それにしても、ルミナリア王国の類稀なる発展ぶりには驚かされるばかりです。リカルド陛下のご慧眼と、その鮮やかな手腕に感服いたしました」
「すべては優れた臣下たちあってこそのことだ。私は彼らの言葉に頷き、書類に判を押しているにすぎん」
着飾った言葉を並べ立てて誉めそやすと、国王は謙遜する素振りを見せた。手応えを感じたレオナールは、いよいよロゼッタについて探りを入れていく。
「そういえば……近頃、貴国にはことさら優秀な文官がおられるとか。その者の知恵によって、新たな魔導書が作られたとお聞きしました」
「ほう、他国にまで知れ渡っていたとは。隠してなどいないのだから、当然と言えば当然だが」
気を悪くした様子もなく国王が笑う。
レオナールはこの好機を逃さず、慎重に言葉を選ぶ。
「実は、私の古い知人にも魔導書に造詣が深い者がおりまして……久しく顔を見ていないのですが、もしかしたらその者ではないかと気になってしまったのです。もし叶うのであれば、一度お会いさせてはいただけないでしょうか?」
狙いを悟られぬよう、あくまで知己の安否を気遣う体を装う。レオナールの申し出に対し、国王は驚くほどすんなりと頷いた。
「構わんとも。本人も此度の来訪を耳にして、是非お会いしたいと申していた」
「それは本当ですか!」
願ってもない展開に、レオナールは前のめりになって国王に尋ねた。
「ああ。若くして王座を継ぐことになった貴殿を常々案じていたようだ。……サンジェスト、ロゼッタをこちらへ」
「承知いたしました」
国王に命じられたエドガーが謁見室を後にする。
やはり魔導書作りに携わっていたのは、ロゼッタのようだ。扉が静かに閉まる音を聞きながら、レオナールと宰相は顔を見合わせ、勝利を確信したような笑みを交わした。
(しかし、ロゼッタが私に会いたがっていたとは……まさか、まだ私に未練があるのか。あるいは慣れない異国での仕事に音を上げ、助けを求めているのかもしれないな)
どちらにせよ、好都合なことに変わりはない。
レオナールはしたり顔を浮かべながら、彼女を言いなりにさせるための妙案を思いつく。
(ロゼッタを連れ帰って正妃に据えてやれば、あの女も泣いて喜ぶだろう。シャロンは……まあ、顔だけは国宝級だからな。側妃として置いておくぐらいなら構わないだろう)
シャロン以外は誰も文句は言うまい。娘を溺愛していたはずのレイファール伯爵夫妻でさえ、「もうお手上げでございます」と匙を投げている有様なのだ。
ロゼッタになんと声をかけてやろう。感動の再会に相応しい甘い言葉を吟味していると、静かなノック音がその思考を遮った。
「ロゼッタを連れてまいりました」