国を追われましたが、文官令嬢としてセカンドライフを送ります!
「す、素敵ですわ~~っ!」
破壊されていく建物を望遠鏡で眺めながら、シャロンは興奮のあまり頬を紅潮させていた。
「どうだい、喜んでもらえたかな?」
「ええ、とっても! あのクソババアの国がめちゃくちゃですわ!」
初めこそ魔法の威力に怯えていたシャロンだったが、崩壊していく街並みを前に、今は抑えきれない歓喜を溢れ出していた。
「なんという力だ!」
「これなら、我らが攻め込むまでもなく一ひねりですね!」
兵士たちも拳を突き上げ、大きく沸き立っている。その歓声を背に受けながら、レオナールは深い愉悦に浸っていた。
「何、結界を張られた時は少し焦ったが、叩き続ければいずれ壊れるのは自明の理だからな」
「これは……もしや本当に、我が国が大陸の覇者となる日が来るのでは……」
同行していた宰相は、かつてない高揚感に身を震わせていた。
(レオナール陛下の代でエリアン王国は終わりだと半ば諦めていたが……今、私は心から実感している。この方に仕えることができて、本当によかったと!)
感動を噛み締める宰相の目尻から、ほろりと涙が零れ落ちる。
「ねえ、レオナール様。その本、私にも貸してくださいませ。私も使ってみたいですわ!」
「これは王族の血を引く者にしか扱えない代物なんだ。すまないね、シャロン」
上目遣いでねだるシャロンの頭を優しく撫でながら、レオナールは息を吐くように嘘をついた。
(これは私だけの魔導書だ。たとえシャロンであっても使わせるものか)
これほどまでに爽快な気分は、生まれて初めてだ。全能感に呑み込まれている自覚もなく、レオナールは仕上げと言わんばかりに、風魔法のページへと手を置いた。
「皆の者、見ているがいい! ルミナリア王国が、この私の手によって滅び去る瞬間をな!」
「キャーッ! レオナール様、かっこいいですわー!」
「『蛮神の息吹よ、地上に這うあらゆる存在を攫いたまえ』!」
呪文を叫んだ瞬間、虚空から巨大な竜巻が現れ──ることはなかった。
「えっ」
よく見れば、魔導書もまったく光を宿していない。
「も、もしや風魔法は呪文を間違えていたのか? まあいい、ひとつくらい使えずとも……」
気を取り直して、今度は確実な火魔法の呪文を唱える。
しかし、魔導書は依然として冷たい沈黙を貫いたままだ。
「おい、どういうことだ! なぜ魔法が使えない! 答えろ!」
混乱のあまり、レオナールはかんしゃくを起こした子供のように魔導書を何度も平手で叩きつけた。
「落ち着いてください、陛下! 魔導書をそのように扱ったら……」
「うるさい! 魔法が使えなかったら、こんなものただのゴミだろうが!」
制止しようとする宰相を乱暴に突き飛ばし、レオナールはなおも魔導書に当たり散らす。そのみっともない醜態に兵士たちの熱狂も急速に引き、気まずい沈黙がその場を支配した。
「恐らく、魔力切れを起こしているのではないかと……」
様子を伺っていた例の製本係が恐る恐る声をかける。
「魔力切れだと!?」
「は、はい。強力な魔法ほど反動で魔力切れを起こしやすいと、以前ロゼッタ様が仰っていました。時が経てば、いずれ魔力は回復するそうですが……」
あと一息でルミナリア王国を潰せるというのに。レオナールは忌々しげに舌打ちをした。
「ちょっと、レオナール様。続きはまだですの? もっとドカンとやって、早くルミナリア王国をやっつけちゃってくださいまし!」
「わ、わかっているよ、シャロン」
可愛い妻に無様な姿は見せられないと、魔導書を再び構える。
(延々と呪文を唱え続けていれば、そのうち使えるようになるはずだ!)
そう自分に言い聞かせ、レオナールは声高らかに呪文を唱え始めた。一秒でも早く、魔導書が再び輝きを取り戻す瞬間を待ち侘びながら。
破壊されていく建物を望遠鏡で眺めながら、シャロンは興奮のあまり頬を紅潮させていた。
「どうだい、喜んでもらえたかな?」
「ええ、とっても! あのクソババアの国がめちゃくちゃですわ!」
初めこそ魔法の威力に怯えていたシャロンだったが、崩壊していく街並みを前に、今は抑えきれない歓喜を溢れ出していた。
「なんという力だ!」
「これなら、我らが攻め込むまでもなく一ひねりですね!」
兵士たちも拳を突き上げ、大きく沸き立っている。その歓声を背に受けながら、レオナールは深い愉悦に浸っていた。
「何、結界を張られた時は少し焦ったが、叩き続ければいずれ壊れるのは自明の理だからな」
「これは……もしや本当に、我が国が大陸の覇者となる日が来るのでは……」
同行していた宰相は、かつてない高揚感に身を震わせていた。
(レオナール陛下の代でエリアン王国は終わりだと半ば諦めていたが……今、私は心から実感している。この方に仕えることができて、本当によかったと!)
感動を噛み締める宰相の目尻から、ほろりと涙が零れ落ちる。
「ねえ、レオナール様。その本、私にも貸してくださいませ。私も使ってみたいですわ!」
「これは王族の血を引く者にしか扱えない代物なんだ。すまないね、シャロン」
上目遣いでねだるシャロンの頭を優しく撫でながら、レオナールは息を吐くように嘘をついた。
(これは私だけの魔導書だ。たとえシャロンであっても使わせるものか)
これほどまでに爽快な気分は、生まれて初めてだ。全能感に呑み込まれている自覚もなく、レオナールは仕上げと言わんばかりに、風魔法のページへと手を置いた。
「皆の者、見ているがいい! ルミナリア王国が、この私の手によって滅び去る瞬間をな!」
「キャーッ! レオナール様、かっこいいですわー!」
「『蛮神の息吹よ、地上に這うあらゆる存在を攫いたまえ』!」
呪文を叫んだ瞬間、虚空から巨大な竜巻が現れ──ることはなかった。
「えっ」
よく見れば、魔導書もまったく光を宿していない。
「も、もしや風魔法は呪文を間違えていたのか? まあいい、ひとつくらい使えずとも……」
気を取り直して、今度は確実な火魔法の呪文を唱える。
しかし、魔導書は依然として冷たい沈黙を貫いたままだ。
「おい、どういうことだ! なぜ魔法が使えない! 答えろ!」
混乱のあまり、レオナールはかんしゃくを起こした子供のように魔導書を何度も平手で叩きつけた。
「落ち着いてください、陛下! 魔導書をそのように扱ったら……」
「うるさい! 魔法が使えなかったら、こんなものただのゴミだろうが!」
制止しようとする宰相を乱暴に突き飛ばし、レオナールはなおも魔導書に当たり散らす。そのみっともない醜態に兵士たちの熱狂も急速に引き、気まずい沈黙がその場を支配した。
「恐らく、魔力切れを起こしているのではないかと……」
様子を伺っていた例の製本係が恐る恐る声をかける。
「魔力切れだと!?」
「は、はい。強力な魔法ほど反動で魔力切れを起こしやすいと、以前ロゼッタ様が仰っていました。時が経てば、いずれ魔力は回復するそうですが……」
あと一息でルミナリア王国を潰せるというのに。レオナールは忌々しげに舌打ちをした。
「ちょっと、レオナール様。続きはまだですの? もっとドカンとやって、早くルミナリア王国をやっつけちゃってくださいまし!」
「わ、わかっているよ、シャロン」
可愛い妻に無様な姿は見せられないと、魔導書を再び構える。
(延々と呪文を唱え続けていれば、そのうち使えるようになるはずだ!)
そう自分に言い聞かせ、レオナールは声高らかに呪文を唱え始めた。一秒でも早く、魔導書が再び輝きを取り戻す瞬間を待ち侘びながら。