君に届くのは、10分の1だけ
第3章 当たり前のふり
律からのメッセージは、短いことが多かった。
今終わった
課題だるい
眠い
駅着いた
それだけ。
でも、届くとうれしかった。
大事な話じゃない。
返事に困るような内容でもない。
なのに、ちゃんと私に送ってくれているのだと思うと、それだけで胸の奥が少しあたたかくなった。
私も最初は、返事を打つのに時間がかかった。
短すぎたら冷たいかもしれない。
長すぎたら変かもしれない。
重いと思われたくない。
そんなことばかり考えて、書いては消してを繰り返した。
でも律は、そんな私の迷いなんて知らないみたいに、いつも同じ調子で返してきた。
水瀬って真面目だよな
そんな丁寧に返さなくていいのに
その一文を見たとき、少しだけ顔が熱くなった。
真面目。
たぶん、深い意味なんてない。
ただ思ったことをそのまま言っただけだ。
でも私は、その何でもない言葉を何回も読み返してしまった。
学校でも、会うことが増えた。
昼休み。
放課後。
たまに朝、昇降口の前。
最初は偶然みたいだったのに、だんだんそれが当たり前みたいになっていった。
律を見つけると安心した。
今日もいる、と思った。
会えない日は、少しだけ物足りなかった。
そんなふうになるなんて、少し前の私は知らなかった。
ある日の昼休み、私はいつもの渡り廊下でパンの袋を開けていた。
そこへ律が来る。
「いた」
その一言だけで、なぜか少しうれしい。
「瀬川くんも、ここ好きだね」
言うと、律は笑った。
「水瀬がいるからじゃない」
さらっと言われて、私は言葉に詰まった。
冗談なのか、本気なのか分からない顔をしている。
たぶん、少しだけからかっている。
でも、そういうことを言われるのに全然慣れていない私は、すぐに顔が熱くなってしまう。
「……そういうこと、普通に言うよね」
「普通じゃない?」
「普通ではないと思う」
私がそう返すと、律は少しだけ笑った。
その笑い方を見ると、悔しいのに安心する。
律の前では、変に構えていた自分が少しずつほどけていく。
それがこわいくらい、自然だった。
美術科棟へ行くことも増えた。
最初は、完成した絵を見せてもらう約束だった。
でも一度行ってしまうと、次も、となるのは早かった。
放課後、律の課題がまだ終わらない日は、私は美術室の隅で待つことがあった。
本を読んだり、スマホを見たりしながら、たまに律のほうを見る。
筆を持つ手。
少し考え込む横顔。
絵の具で汚れた指先。
描いているときの律は、ふだんより少しだけ遠かった。
話しかけにくいわけじゃない。
でも、そっとしておきたくなる感じがあった。
その時間が、私は好きだった。
ある日、律が途中で筆を止めて、振り向いた。
「ずっと見てる」
「見てない」
反射みたいに否定すると、律は笑う。
「いや、見てた」
「……ちょっとだけ」
「ちょっとなら見てたんじゃん」
そう言われて、言い返せなくなる。
律はキャンバスから少し離れて、私の隣まで来た。
「水瀬ってさ」
今終わった
課題だるい
眠い
駅着いた
それだけ。
でも、届くとうれしかった。
大事な話じゃない。
返事に困るような内容でもない。
なのに、ちゃんと私に送ってくれているのだと思うと、それだけで胸の奥が少しあたたかくなった。
私も最初は、返事を打つのに時間がかかった。
短すぎたら冷たいかもしれない。
長すぎたら変かもしれない。
重いと思われたくない。
そんなことばかり考えて、書いては消してを繰り返した。
でも律は、そんな私の迷いなんて知らないみたいに、いつも同じ調子で返してきた。
水瀬って真面目だよな
そんな丁寧に返さなくていいのに
その一文を見たとき、少しだけ顔が熱くなった。
真面目。
たぶん、深い意味なんてない。
ただ思ったことをそのまま言っただけだ。
でも私は、その何でもない言葉を何回も読み返してしまった。
学校でも、会うことが増えた。
昼休み。
放課後。
たまに朝、昇降口の前。
最初は偶然みたいだったのに、だんだんそれが当たり前みたいになっていった。
律を見つけると安心した。
今日もいる、と思った。
会えない日は、少しだけ物足りなかった。
そんなふうになるなんて、少し前の私は知らなかった。
ある日の昼休み、私はいつもの渡り廊下でパンの袋を開けていた。
そこへ律が来る。
「いた」
その一言だけで、なぜか少しうれしい。
「瀬川くんも、ここ好きだね」
言うと、律は笑った。
「水瀬がいるからじゃない」
さらっと言われて、私は言葉に詰まった。
冗談なのか、本気なのか分からない顔をしている。
たぶん、少しだけからかっている。
でも、そういうことを言われるのに全然慣れていない私は、すぐに顔が熱くなってしまう。
「……そういうこと、普通に言うよね」
「普通じゃない?」
「普通ではないと思う」
私がそう返すと、律は少しだけ笑った。
その笑い方を見ると、悔しいのに安心する。
律の前では、変に構えていた自分が少しずつほどけていく。
それがこわいくらい、自然だった。
美術科棟へ行くことも増えた。
最初は、完成した絵を見せてもらう約束だった。
でも一度行ってしまうと、次も、となるのは早かった。
放課後、律の課題がまだ終わらない日は、私は美術室の隅で待つことがあった。
本を読んだり、スマホを見たりしながら、たまに律のほうを見る。
筆を持つ手。
少し考え込む横顔。
絵の具で汚れた指先。
描いているときの律は、ふだんより少しだけ遠かった。
話しかけにくいわけじゃない。
でも、そっとしておきたくなる感じがあった。
その時間が、私は好きだった。
ある日、律が途中で筆を止めて、振り向いた。
「ずっと見てる」
「見てない」
反射みたいに否定すると、律は笑う。
「いや、見てた」
「……ちょっとだけ」
「ちょっとなら見てたんじゃん」
そう言われて、言い返せなくなる。
律はキャンバスから少し離れて、私の隣まで来た。
「水瀬ってさ」