真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
「はい、研修で見ました。繊細でありながらゴージャス! 中央にあるダイヤモンドは三色から選べるじゃないですか。店長ならどれがいいですか?」
 三つあるティアラのデザインは、それぞれ異なる。その中でも大きく違うのは正面にあるダイヤモンドの色だ。
 透明のダイヤモンド以外に、ブルーダイヤモンド、ピンクダイヤモンドがある。
「私はオーソドックスに透明のダイヤモンドかな」
「無難で間違いないですよね! 私はピンクがいいな」
 にこにこと話すその様子から、愛敬はいいのだろう。
 だけれどそれだけでは不安を払拭しきれず、私は小さくため息を落とした。

 七月七日、今日は七夕ですと明るい声がテレビから聞こえてくる。
 それを耳にしながらジャーマンカモミールの葉を軽く水洗いして、汚れを落とす。
 四月に悠磨と別れ、落ち込んだり浮上したりを繰り返して不安定だった気持ちも、随分と落ち着いてきた。
 まだ時折(どうして?)とどうしようもない悔しさと惨めさに苛まれる瞬間はあるけれど、概ね気持ちを整理できたと思う。
 あれから私は週に一度ぐらいの割合で、ハーブティーカフェに通っている。
 仕事帰りに一時間、おかげでハーブにも詳しくなった。
 隼人くんとも親しくなり、最近ではメニューの表記について相談をされる。
 私は二年だけ、本社で広報の仕事をしていたことがある。
 主な仕事内容は、雑誌社への商品の貸し出しと自社カタログの制作。
 自社カタログとはいえ、撮影をするのはもちろんプロのカメラマンだ。でも、カタログに掲載された商品に数行のコメントを加えるのは私の仕事だった。
 短い文章で商品の良さを的確に伝えるのは、なかなか難しい。 
 初めの頃は「可愛い」「シンプル」「綺麗」の三つの単語しか思いつかず、悩んだものだ。
 そんな話を隼人くんにしたところ、メニュー写真の下に入れるコメントを考えて欲しいと頼まれた。
「たとえば、ローズヒップティが美容にいいことをお客さんに伝えたいんだ。さらにキャッチフレーズみたいなものを考えてくれると嬉しい」
 そんな風に言われ、試しに作ったものがお客さんに好評だったらしい。
 以後、頼まれるたびに考えている。
 謝礼はハーブティー一杯と、最近お店で出し始めたハーブ入りクッキー。こちらも隼人くんの手作りだ。
 さらに時折ハーブを分けてくれ、美味しいハーブティーの淹れ方も教わった。
 今淹れているジャーマンカモミールのフレッシュハーブティーも、コメントを考えたお礼にもらったものだ。
 乾燥させていないジャーマンカモミールは、より柔らかな風味を感じる。
 使うのはジャーマンカモミールの花を五個。それをティーポットに入れて湯を注ぐ。
 ティーポットとカップは耐熱性ガラスを選んだ。湯の中で葉や花が開き、色が変わるのを楽しめる。
 そして大事なのが、必ず蓋をすること。
 ハーブから出る揮発性の成分を逃さないためで、蓋を取るときは内側についた雫をティーポット内に落とすようにする。ここに香りがぎゅっと濃縮されているらしい。
 出来上がったハーブティーをゆっくりと楽しむ。
 このために十五分早起きするようになった。
「香帆、そろそろバスの時間じゃない」
「うん、これを飲んだら行く。お母さんの分もあるよ」
「ありがとう」
 右手でカップを持ちながら、左手でティーポットを持つ。そうしてお母さんのカップにコポコポと注いだ。
「そうだ、お盆にお父さんが帰ってきたら、悠磨さんも呼んで食事をしましょう。あっ、それとも両家の顔合わせを考えていたりする?」
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