真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
電話先の本社管理官に根掘り葉掘り聞かれ叱られ、スマホを切ったときには一時間が経っていた。そのあとは始末書を書く。早野さんには明日中に提出するよう伝えた。
丸山様の様子だと、これは大事になるかもしれない。そんな予感に、私は深いため息を落としたのだった。
仕事が終わり最寄駅を降りた私は、バス停とは反対の出口へ向かう。
すっかり慣れた道を進み、住宅街にあるひと際明るい灯の扉を開けた。
「いらっしゃい。カウンターでいい?」
「うん」
座るとメニューを手渡される。ハーブティーには私が考えたキャッチフレーズとコメントが並んでいた。
カウンターには男性客がひとりいて、隼人くんと親し気に会話をしていた。私と目が合うと、お客さんが小さく会釈してくれる。少し猫背で、髪はサラサラのストレート。黒い眼鏡が印象的な男性だ。
「隼人、彼女がハーブティーのコメントを考えてくれるお姉さん?」
「そうだよ。香帆さん、前の会社で一緒だった加藤。すぐに帰るから気にしないでいいよ」
「おいっ」
隼人くんの言葉に加藤さんがすかさず突っ込む。
「まあ、そろそろ帰るつもりだったけれど。じゃ、また来るから。それから休みはとるんだぞ。無理はするな」
「分かってる。じゃあな」
加藤さんは苦言を呈すると、お金を机に置いた。
隼人くんは彼を店の外まで見送ると、すぐに戻ってくる。
本社への始末書に加え六月の売上報告書も作っていたせいで、残業となってしまった。
時刻は十一時半、店内にいるのは私を除くと女性三人組だけだ。
「最近、夕方から店が忙しくて。香帆さんが作ってくれたコメントのおかげだよ。お客さんからの評判もいいんだ」
「それはよかった」
答えながら今日のおすすめブレンドを頼もうとすると、女性三人が席を立った。
交わす会話の中に「夜勤」が含まれていたから、若菜と同じ職場で働く看護師かもしれない。
お会計を済ませると、隼人くんは再び私のもとへ来る。
「よければなんだけれど、試作品を飲んでくれないかな? それとももうオーダーを決めてしまった?」
「ううん。試作品って、どんなハーブティーなの?」
おすすめブレンドから試作品へ、私の興味の天秤はあっさりと傾いた。
隼人くんはちょっと待っていてと言って、カウンターの中へ入っていく。
「暑くなってきたから、アイスティを始めようと思うんだ。それで調べていたら面白そうなのがあって」
話しながら隼人くんは慣れた手つきで湯をティーポットに注ぐ。その湯の量がいつもより少ない。
私の視線に気がついたのか、ティーポットに蓋をしたあと隼人くんは顔をあげた。
「あとで氷を入れるから、湯の量はいつもの半分。帰りにハーブもおすそ分けするから、作り方を教えるよ」
「ありがとう。そういえばハーブの販売も始めたんだね。お代金はちゃんと支払うから」
カウンターの端に小さな籠があり、そこにTUKUYOMIオリジナルブレンドと書かれたプレートが立てかけられている。
「代金はいいから、代わりにいつものキャッチフレーズ作ってくれると嬉しい」
「分かった。じゃ、頑張って売れるフレーズを考える!」
砂時計の砂が落ちるにつれ、ティーポットの湯がワインレッドに変わっていく。
隼人くんは陶器でできたロンググラスを取り出すと、そこにたっぷりの氷を淹れた。そうしてその中に、ハーブティーを注ぐ。
「こうやって氷でハーブティーを冷やす。一気に冷やすのは香りを逃がさないためなんだ」
冷えたハーブティを今度はガラスのロンググラスに移し替えると、私の前に置いた。
丸山様の様子だと、これは大事になるかもしれない。そんな予感に、私は深いため息を落としたのだった。
仕事が終わり最寄駅を降りた私は、バス停とは反対の出口へ向かう。
すっかり慣れた道を進み、住宅街にあるひと際明るい灯の扉を開けた。
「いらっしゃい。カウンターでいい?」
「うん」
座るとメニューを手渡される。ハーブティーには私が考えたキャッチフレーズとコメントが並んでいた。
カウンターには男性客がひとりいて、隼人くんと親し気に会話をしていた。私と目が合うと、お客さんが小さく会釈してくれる。少し猫背で、髪はサラサラのストレート。黒い眼鏡が印象的な男性だ。
「隼人、彼女がハーブティーのコメントを考えてくれるお姉さん?」
「そうだよ。香帆さん、前の会社で一緒だった加藤。すぐに帰るから気にしないでいいよ」
「おいっ」
隼人くんの言葉に加藤さんがすかさず突っ込む。
「まあ、そろそろ帰るつもりだったけれど。じゃ、また来るから。それから休みはとるんだぞ。無理はするな」
「分かってる。じゃあな」
加藤さんは苦言を呈すると、お金を机に置いた。
隼人くんは彼を店の外まで見送ると、すぐに戻ってくる。
本社への始末書に加え六月の売上報告書も作っていたせいで、残業となってしまった。
時刻は十一時半、店内にいるのは私を除くと女性三人組だけだ。
「最近、夕方から店が忙しくて。香帆さんが作ってくれたコメントのおかげだよ。お客さんからの評判もいいんだ」
「それはよかった」
答えながら今日のおすすめブレンドを頼もうとすると、女性三人が席を立った。
交わす会話の中に「夜勤」が含まれていたから、若菜と同じ職場で働く看護師かもしれない。
お会計を済ませると、隼人くんは再び私のもとへ来る。
「よければなんだけれど、試作品を飲んでくれないかな? それとももうオーダーを決めてしまった?」
「ううん。試作品って、どんなハーブティーなの?」
おすすめブレンドから試作品へ、私の興味の天秤はあっさりと傾いた。
隼人くんはちょっと待っていてと言って、カウンターの中へ入っていく。
「暑くなってきたから、アイスティを始めようと思うんだ。それで調べていたら面白そうなのがあって」
話しながら隼人くんは慣れた手つきで湯をティーポットに注ぐ。その湯の量がいつもより少ない。
私の視線に気がついたのか、ティーポットに蓋をしたあと隼人くんは顔をあげた。
「あとで氷を入れるから、湯の量はいつもの半分。帰りにハーブもおすそ分けするから、作り方を教えるよ」
「ありがとう。そういえばハーブの販売も始めたんだね。お代金はちゃんと支払うから」
カウンターの端に小さな籠があり、そこにTUKUYOMIオリジナルブレンドと書かれたプレートが立てかけられている。
「代金はいいから、代わりにいつものキャッチフレーズ作ってくれると嬉しい」
「分かった。じゃ、頑張って売れるフレーズを考える!」
砂時計の砂が落ちるにつれ、ティーポットの湯がワインレッドに変わっていく。
隼人くんは陶器でできたロンググラスを取り出すと、そこにたっぷりの氷を淹れた。そうしてその中に、ハーブティーを注ぐ。
「こうやって氷でハーブティーを冷やす。一気に冷やすのは香りを逃がさないためなんだ」
冷えたハーブティを今度はガラスのロンググラスに移し替えると、私の前に置いた。