真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 涼やかでありながら、夏を連想させる赤色が綺麗だ。
「なんだかハイビスカスみたい」
 夏と赤のイメージから頭に浮かんだ花を口にすると、隼人くんは「おっ」と眉をあげた。
「いい勘しているね。これ、ハイビスカスティなんだ。ワインレッド色が綺麗だろう」
「このハーブティーの効用はなんなの?」
「ポリフェノールが含まれているから、抗酸化作用があると言われている。メラニンの生成を抑え、紫外線による肌のしみやそばかすの原因になる活性酸素? だったかな、それを防いでくれる」
 他にもクエン酸、りんご酸、ビタミンCも含んでいると教えてくれた。
 目で促されひと口飲むと、爽やかな酸味が口に広がる。
「酸っぱくて美味しい」
「よかった。酸味が苦手だったら蜂蜜をいれてもいい。それから……」
 そう言って、隼人くんは普段ガムシロップを淹れる小さな器を取り出した。
「ぜひこれを加えてみて」
 手渡され、軽く揺する。ガムシロップのようなとろみはない。
鼻を近づけると、レモンの香りがした。
 隼人くんは、わくわくとした顔で私がレモン汁を入れるのを待っている。
 ちょっと子犬のようだ。しかも眉目秀麗な。
 相変わらず見た目がいいなぁ、さっきの看護師さんたちも隼人くん目当てに違いない。そんなことを考えつつレモン汁を加えると。
「わっ、色が変わった」
 ワインレッドが赤みがかったピンク色へと変化していく。
 飲むと、レモン汁が加わったことでより爽快な風味になっていた。
「これ、女性が好きだと思う」
「よし、じゃぁ、夏限定メニューはこれで決まりだな。そうと決まったら、ロンググラスを手配しなきゃ」
 商売人としては、夏商品の準備が少々遅い気もするけれど、最近は九月になっても暑いから需要期間は長いはず。
 隼人くんはタブレットを持って私の隣に座ると、画面を見せてきた。
「ロンググラスもいろいろあって、ぜひ女性の意見を聞きたい」
「私でよければ。でも彼女には聞かないの?」
「彼女、いないから。ここ四年ぐらい仕事に忙殺されていて恋愛どころじゃなかったんだ。その前の彼女に振られた理由も、仕事ばかりしているからだった」
 そんなに忙しかったんだ。
 加藤さんが帰りがけに、やけに隼人くんの体調を気遣っていたのはそのためだったのかと合点がいく。
「そんなに忙しかったの?」
「うん。頼られるのが嬉しくて仕事をどんどん引き受けているうちに、ワークホリックになっていた。あの頃は、ずっとデスクに座っていたな。飯だって、パソコンをしながら携帯食を機械的に口に運んでいた。そのうち目を閉じてもパソコンの画面が浮かぶようになっちゃって、これはまずいなとなったんだ」
 フラッシュバックというやつだ。
精神的にも肉体的にもかなり追い込まれていたらしい。
「大変だったんだね」
「そんなとき、寝不足が続いたせいでミスをしちゃって。なのに、誰も助けてくれないんだ。今まで何度も俺がフォローしてきたヤツも、お前なら対処できるだろうと言うだけ。あっ、加藤だけは助けてくれたけれど」
 ひとり朝まで会社でミスの修正をして、取引先には迷惑はかけずにすんだらしい。
 優秀だからこそ、背負いすぎてしまったようだ。
「どれだけ忙しくて寝る間がなくても頑張れたのは、必要にされているという実感があったからだった。でも、うまく利用されていただけのような気がして、心が折れてしまった。それで転職したんだ」
 軽い口調に反し、話された内容は重いものだった。
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