真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
「そうか、それも必要だな。一緒に頼もう」
ふたりして、あれがいい、これがいいと言っているうちに、時間は閉店近くになっていた。
「あっ、もうこんな時間か。香帆さん、明日仕事は?」
「休みだよ。TUKUYOMIも休みだよね。あっ、でも隼人くんは副業をしているんだっけ」
「そうだけれど。そっちは無理しない程度にやっているから。って、TUKUYOMIもだけれど」
以前、働き方をリセットしている最中だと言っていた。
そのときはどうしてだろうと思っていたけれど、今日、前職の話を聞いて納得した。
のんびり――なんなら呑気にも見える隼人くんは、生き方の模索中のようだ。
「そういえば、TUKUYOMIってどういう意味なの?」
ふとした質問に、隼人くんは眉間に皺を寄せた。
「やっと聞いてくれた。いつ質問してくれるのかと待っていたんだ」
「ごめんごめん。気にはなっていたんだけれど、なんとなく聞きそびれちゃって」
言い訳をする私に、隼人くんはわざとらしくため息を落とすと、再びタブレットを操作し始めた。
そうして画面を私に見せてくれる。
「えーと。月を象徴する神で日本神話における唯一の月の霊神……TUKUYOMIって神様だったの?」
「そうだよ。アマテラス、スサノオらと合わせて最も尊い神『三貴子』と呼ばれている」
天照大御神と須佐之男命は聞いたことがある。まさか、彼らと一緒だとは。
「すごい名前だったんだね」
「まあね」
隼人くんは席を立つとタブレットを片付け、店の外に出ていった。
そして畳んだ看板を片手に戻ってくる。
「ちょっと早いけれど閉店にしよう」
「自由発言、出た。羨ましい」
「まぁね。個人事業主特権だな。香帆さん、もうちょっと時間大丈夫だよね。ちょっとお薦めしたいものがあるから待っていて」
隼人くんはカウンターの向こう側に回ると、エプロンを外してしゃがみ込んだ。
エプロンは黒地でTUKUYOMIと白く書かれている。
神様かぁと思いながらその文字を眺めていると、隼人くんが瓶を片手に立ちあがった。
そうして、普段水を提供するときに使うグラスを手にすると、再び私の隣に座る。
「それ、なに?」
蓋つきの瓶の中には透明な液体と数種類のハーブが入っている。
カウンターの端にあった水差しを引き寄せながら、隼人くんがにっと笑う。
「手作りハーブ酒。瓶に氷砂糖を半分入れて、ローズヒップ・ハイビスカス・レモングラス・セージを詰めて、ウォッカを注ぐ。密閉して日の当たらない場所で一ヶ月保管したらできあがり。簡単だろう?」
「へぇ、お酒まで作っちゃったか。もしかして、これも売るとか?」
「まさか。そんなことしたら酒税法に引っ掛かっちゃう。これは自分用だから法的にセーフ」
昨日飲んだら美味しかったんだと言いながら、隼人くんは楽しそうにグラスにハーブ酒を注ぎ、それを水で割る。
でもそれって。
「私が飲んだら違法になるんじゃないの?」
「酒税法によると、自分で飲むために酒類に梅などを混和する場合は、例外的に製造行為としないらしい。ただ、作った酒は販売不可。友人に振る舞うことや贈答は、無償ならOK」
「へぇ、そうなんだ。じゃぁ私、隼人くんの友達になる」
はいっと手を挙げた私に、隼人くんは一瞬目を見張る。そして次に難しい顔で腕を組んだ。
「どうしようかな」
「ハーブ酒、飲みたいです!」
「それだけじゃ、友達にはなれないな」
「えー。知り合いの子供は、幼稚園で隣の席になっただけで友達認定しているらしいよ」
「友達のハードルが低い!」
ふたりして、あれがいい、これがいいと言っているうちに、時間は閉店近くになっていた。
「あっ、もうこんな時間か。香帆さん、明日仕事は?」
「休みだよ。TUKUYOMIも休みだよね。あっ、でも隼人くんは副業をしているんだっけ」
「そうだけれど。そっちは無理しない程度にやっているから。って、TUKUYOMIもだけれど」
以前、働き方をリセットしている最中だと言っていた。
そのときはどうしてだろうと思っていたけれど、今日、前職の話を聞いて納得した。
のんびり――なんなら呑気にも見える隼人くんは、生き方の模索中のようだ。
「そういえば、TUKUYOMIってどういう意味なの?」
ふとした質問に、隼人くんは眉間に皺を寄せた。
「やっと聞いてくれた。いつ質問してくれるのかと待っていたんだ」
「ごめんごめん。気にはなっていたんだけれど、なんとなく聞きそびれちゃって」
言い訳をする私に、隼人くんはわざとらしくため息を落とすと、再びタブレットを操作し始めた。
そうして画面を私に見せてくれる。
「えーと。月を象徴する神で日本神話における唯一の月の霊神……TUKUYOMIって神様だったの?」
「そうだよ。アマテラス、スサノオらと合わせて最も尊い神『三貴子』と呼ばれている」
天照大御神と須佐之男命は聞いたことがある。まさか、彼らと一緒だとは。
「すごい名前だったんだね」
「まあね」
隼人くんは席を立つとタブレットを片付け、店の外に出ていった。
そして畳んだ看板を片手に戻ってくる。
「ちょっと早いけれど閉店にしよう」
「自由発言、出た。羨ましい」
「まぁね。個人事業主特権だな。香帆さん、もうちょっと時間大丈夫だよね。ちょっとお薦めしたいものがあるから待っていて」
隼人くんはカウンターの向こう側に回ると、エプロンを外してしゃがみ込んだ。
エプロンは黒地でTUKUYOMIと白く書かれている。
神様かぁと思いながらその文字を眺めていると、隼人くんが瓶を片手に立ちあがった。
そうして、普段水を提供するときに使うグラスを手にすると、再び私の隣に座る。
「それ、なに?」
蓋つきの瓶の中には透明な液体と数種類のハーブが入っている。
カウンターの端にあった水差しを引き寄せながら、隼人くんがにっと笑う。
「手作りハーブ酒。瓶に氷砂糖を半分入れて、ローズヒップ・ハイビスカス・レモングラス・セージを詰めて、ウォッカを注ぐ。密閉して日の当たらない場所で一ヶ月保管したらできあがり。簡単だろう?」
「へぇ、お酒まで作っちゃったか。もしかして、これも売るとか?」
「まさか。そんなことしたら酒税法に引っ掛かっちゃう。これは自分用だから法的にセーフ」
昨日飲んだら美味しかったんだと言いながら、隼人くんは楽しそうにグラスにハーブ酒を注ぎ、それを水で割る。
でもそれって。
「私が飲んだら違法になるんじゃないの?」
「酒税法によると、自分で飲むために酒類に梅などを混和する場合は、例外的に製造行為としないらしい。ただ、作った酒は販売不可。友人に振る舞うことや贈答は、無償ならOK」
「へぇ、そうなんだ。じゃぁ私、隼人くんの友達になる」
はいっと手を挙げた私に、隼人くんは一瞬目を見張る。そして次に難しい顔で腕を組んだ。
「どうしようかな」
「ハーブ酒、飲みたいです!」
「それだけじゃ、友達にはなれないな」
「えー。知り合いの子供は、幼稚園で隣の席になっただけで友達認定しているらしいよ」
「友達のハードルが低い!」