真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
「出る必要がある? あなたは彼女を妊娠させた責任を取って結婚するんでしょう? 私たちが今さら話すことはなにもない」
淡々と話すつもりが、つい声が大きくなってしまう。
あんな酷い裏切りをしておいて、のこのこ実家に来る悠磨の考えが分からない。
早く帰ってと言おうとすると、悠磨は突然膝をつき、額がフローリングにくっつきそうなほど深く頭を下げた。いわゆる土下座だ。
「妊娠していなかった。俺は騙されたんだ」
「はい?」
「嘘だったんだよ。俺と結婚するために妊娠したなんて言ったんだ。たまたまあいつのパソコンを触る機会があって、そこで陽性の妊娠検査薬を購入していたのが分かった。恐ろしいよな、そんなものが売買されているなんて。だから、あいつとは別れたんだ」
お腹の奥から怒りがこみ上げてくる。
だからなに? 妊娠していなかったから私とよりを戻そうと言うの?
「そう。でもそれがどうしたの? 私には関係ないわ」
「香帆! そんな強がり言うなよ。お前、俺のことを好きだっただろう。妊娠していなかったんだから、俺たちがよりを戻すのは自然な流れだ。そうだ! 結婚。すぐにでも婚約して式場を探そう!」
こんな自分勝手な人だったのだろうか。
思えば、彼はいつも自分中心の考え方をしていたような気がする。好きだったから許していたけれど、今はその考えに嫌悪を感じた。
私が黙っていると、悠磨はさらに饒舌になる。
「香帆は仕事が好きだろう。結婚しても仕事を辞めろなんて言わないよ。働くのだって許してやる。子供ができたら育児だって手伝うよ」
それは、付き合っているときにも言われた言葉だった。
俺って理解あるだろうと自慢げに語る顔に、小さな違和感を覚えたのを思い出した。
当時はその理由が分からなかったが、今ならはっきりと自覚できる。
「どうして働くのにあなたの許可が必要なの?」
「えっ、だって……」
「それじゃ、悠磨は私の許可を得て働くってこと?」
「いやいや、俺は男だから。ちょっと待って、論点がずれていないか?」
焦りながら立ちあがる悠磨に、私は毅然と首を振る。
「それから育児を手伝うってなに? ふたりの子供だよ。義務も責任も私とあなた同じようにあるの」
付き合っているとき、こんな風に悠磨と言い合いになることはなかった。
誰かを言い負かすのは好きじゃないから、もやもやとした気持ちになっても我慢してきた。
「そもそも、自分がなにをしたか分かっている? 彼女が妊娠していなくても、妊娠するような行いをしたのは間違いないでしょう。どうして私を裏切ったあなたを、私が許すと思えるの?」
「だって、香帆は俺のことが好きだろう?」
「三ヶ月前までは。たとえ今よりを戻しても、私は悠磨を許せない。元通りにはならない。それだけのことをあなたはしたのよ」
元鞘に納まる気はこれっぽっちもない。
私の人生に悠磨の居場所はもうないのだ。
「……他に好きな奴がいるのか?」
「はい?」
「別れてたった三ヶ月で、もう他の男と親しくなったんだな」
「ちょっと待って。なにを言っているの? 彼氏なんていないし、そもそも悠磨に私を責める資格はない。とにかく、私は悠磨のことをもう好きじゃない。帰って!」
悠磨を押しのけるように扉を開け、帰るように促す。
私の様子に付け入る隙はないと思ったのか、悠磨は渋々と部屋を出ていった。でも、そこで足を止める。
「お義母さん」
「えっ?」
廊下にはお盆に紅茶と珈琲を載せたお母さんが立っていた。
なにも用意しなくていいと言ったはずなのに、飲み物を持ってきたようだ。
淡々と話すつもりが、つい声が大きくなってしまう。
あんな酷い裏切りをしておいて、のこのこ実家に来る悠磨の考えが分からない。
早く帰ってと言おうとすると、悠磨は突然膝をつき、額がフローリングにくっつきそうなほど深く頭を下げた。いわゆる土下座だ。
「妊娠していなかった。俺は騙されたんだ」
「はい?」
「嘘だったんだよ。俺と結婚するために妊娠したなんて言ったんだ。たまたまあいつのパソコンを触る機会があって、そこで陽性の妊娠検査薬を購入していたのが分かった。恐ろしいよな、そんなものが売買されているなんて。だから、あいつとは別れたんだ」
お腹の奥から怒りがこみ上げてくる。
だからなに? 妊娠していなかったから私とよりを戻そうと言うの?
「そう。でもそれがどうしたの? 私には関係ないわ」
「香帆! そんな強がり言うなよ。お前、俺のことを好きだっただろう。妊娠していなかったんだから、俺たちがよりを戻すのは自然な流れだ。そうだ! 結婚。すぐにでも婚約して式場を探そう!」
こんな自分勝手な人だったのだろうか。
思えば、彼はいつも自分中心の考え方をしていたような気がする。好きだったから許していたけれど、今はその考えに嫌悪を感じた。
私が黙っていると、悠磨はさらに饒舌になる。
「香帆は仕事が好きだろう。結婚しても仕事を辞めろなんて言わないよ。働くのだって許してやる。子供ができたら育児だって手伝うよ」
それは、付き合っているときにも言われた言葉だった。
俺って理解あるだろうと自慢げに語る顔に、小さな違和感を覚えたのを思い出した。
当時はその理由が分からなかったが、今ならはっきりと自覚できる。
「どうして働くのにあなたの許可が必要なの?」
「えっ、だって……」
「それじゃ、悠磨は私の許可を得て働くってこと?」
「いやいや、俺は男だから。ちょっと待って、論点がずれていないか?」
焦りながら立ちあがる悠磨に、私は毅然と首を振る。
「それから育児を手伝うってなに? ふたりの子供だよ。義務も責任も私とあなた同じようにあるの」
付き合っているとき、こんな風に悠磨と言い合いになることはなかった。
誰かを言い負かすのは好きじゃないから、もやもやとした気持ちになっても我慢してきた。
「そもそも、自分がなにをしたか分かっている? 彼女が妊娠していなくても、妊娠するような行いをしたのは間違いないでしょう。どうして私を裏切ったあなたを、私が許すと思えるの?」
「だって、香帆は俺のことが好きだろう?」
「三ヶ月前までは。たとえ今よりを戻しても、私は悠磨を許せない。元通りにはならない。それだけのことをあなたはしたのよ」
元鞘に納まる気はこれっぽっちもない。
私の人生に悠磨の居場所はもうないのだ。
「……他に好きな奴がいるのか?」
「はい?」
「別れてたった三ヶ月で、もう他の男と親しくなったんだな」
「ちょっと待って。なにを言っているの? 彼氏なんていないし、そもそも悠磨に私を責める資格はない。とにかく、私は悠磨のことをもう好きじゃない。帰って!」
悠磨を押しのけるように扉を開け、帰るように促す。
私の様子に付け入る隙はないと思ったのか、悠磨は渋々と部屋を出ていった。でも、そこで足を止める。
「お義母さん」
「えっ?」
廊下にはお盆に紅茶と珈琲を載せたお母さんが立っていた。
なにも用意しなくていいと言ったはずなのに、飲み物を持ってきたようだ。