真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
私は席を立つと、お弁当箱を取り出す。今夜のうちにお弁当に入れておけば、明日はご飯を詰めるだけだ。
「いいわよ、お母さんが食べるから。それより、香帆。あなたお付き合いしている人がいるの?」
「えっ? もしかして悠磨の言葉を信じているの? いないよ、そんな人」
「そう。でもほら、三日ぐらい前にバイクに乗って帰ってきたじゃない。彼とはどんな関係? なにをしている人?」
まるで私を咎めるように、お母さんの口調が厳しくなる。
見られていたとは思わなかった。だけれど母の口調から会話までは聞かれていないようだ。
「いきつけのハーブティーカフェの店員さん。終バスを逃がしたから送ってくれただけだよ」
「カフェ……。店員さんがお客さんをいちいち家まで送ったりする?」
「それは……ちょっと頼まれてメニューのキャッチフレーズを考えたことがあるの。そのお礼だよ」
もういいでしょう、と私はお弁当を冷蔵庫にしまう。
今日は仕事も忙しかったし、それ以上に悠磨の突然訪問で疲れた。
「お風呂に入ってくる」
残りの食器を下げそう言うと、まだなにか言いたそうなお母さんを残して私はお風呂場へ向かった。
数日後、私はバックヤードでパソコンの画面を睨んでいた。
それに気が付いた木村さんが、背後から声をかけてくる。
「SNSの書き込みですか」
「うん、匿名だけれど、これ、この前早野さんが接客した男性よね」
木村さんにも見えやすいように、身体を横にずらす。
木村さんは、腰を折り顔を画面に近づけると、ぎゅっと眉根を寄せた。
「『この店は顧客情報を平気で漏えいする』『店員の不手際のせいで婚約者と別れた』『別れを呼ぶエンゲージリング』酷いですね。もちろん早野さんの行いは許されるべきではありませんが、そもそも二股をかけていた彼にも問題があります。しかも浮気相手とエンゲージリングを見るなんて、酷すぎです」
「そうなのよね。ただ、こっちに不手際があった以上、もう一度謝罪すべきかなと思って」
「本社に連絡はされたのですか?」
聞かれ、ため息と一緒に頷く。
「ええ。お客様にアポを取ってご自宅まで謝罪に行くと、本社に申請を出したところよ」
この件は、本社でも大きな問題として認識されている。
お客様のご自宅に菓子折りを持って謝りに行くのは、クレーム対応の最終手段に近い。
店長とはいえ私の一存ではできず、本社の許可が必要だ。
「大きな問題になるかもと思っていたのですが、最悪の展開ですね」
「そうね。もしかすると本社のカスタマーセンターから応援が来るかも」
各店舗の問題は、その店舗で解決するのが決まりだ。
でも、対応が長引いたり、悪質なクレームで通常業務に支障が出ると判断された場合は、本社のカスタマーセンターがそれを請け負うことになっている。
ちなみにカスタマーセンターは最近名称を変えたばかりで、それまではお客様相談室だった。私たちの間では苦情処理係という認識だ。
「早野さんにこのことは伝えたんですか?」
「さっき、今までの勤務態度も含めて説明したんだけれど……」
「なにかあったのですか?」
「体調がすぐれないって言って帰っちゃったの」
あぁ、と木村さんが頭を抱える。
それと同時に、早野さんが早退したと伝えたときの、他の販売員の渋面を思い出した。
私が立ち去ったあと、「もっとうまく指導すればいいのに」「立ち回りが悪い」と言っていた。
そう言われるのも、もっともだから反論の余地がない。
「私が不甲斐ないばかりに、皆に迷惑をかけて申し訳ありません」
「いいわよ、お母さんが食べるから。それより、香帆。あなたお付き合いしている人がいるの?」
「えっ? もしかして悠磨の言葉を信じているの? いないよ、そんな人」
「そう。でもほら、三日ぐらい前にバイクに乗って帰ってきたじゃない。彼とはどんな関係? なにをしている人?」
まるで私を咎めるように、お母さんの口調が厳しくなる。
見られていたとは思わなかった。だけれど母の口調から会話までは聞かれていないようだ。
「いきつけのハーブティーカフェの店員さん。終バスを逃がしたから送ってくれただけだよ」
「カフェ……。店員さんがお客さんをいちいち家まで送ったりする?」
「それは……ちょっと頼まれてメニューのキャッチフレーズを考えたことがあるの。そのお礼だよ」
もういいでしょう、と私はお弁当を冷蔵庫にしまう。
今日は仕事も忙しかったし、それ以上に悠磨の突然訪問で疲れた。
「お風呂に入ってくる」
残りの食器を下げそう言うと、まだなにか言いたそうなお母さんを残して私はお風呂場へ向かった。
数日後、私はバックヤードでパソコンの画面を睨んでいた。
それに気が付いた木村さんが、背後から声をかけてくる。
「SNSの書き込みですか」
「うん、匿名だけれど、これ、この前早野さんが接客した男性よね」
木村さんにも見えやすいように、身体を横にずらす。
木村さんは、腰を折り顔を画面に近づけると、ぎゅっと眉根を寄せた。
「『この店は顧客情報を平気で漏えいする』『店員の不手際のせいで婚約者と別れた』『別れを呼ぶエンゲージリング』酷いですね。もちろん早野さんの行いは許されるべきではありませんが、そもそも二股をかけていた彼にも問題があります。しかも浮気相手とエンゲージリングを見るなんて、酷すぎです」
「そうなのよね。ただ、こっちに不手際があった以上、もう一度謝罪すべきかなと思って」
「本社に連絡はされたのですか?」
聞かれ、ため息と一緒に頷く。
「ええ。お客様にアポを取ってご自宅まで謝罪に行くと、本社に申請を出したところよ」
この件は、本社でも大きな問題として認識されている。
お客様のご自宅に菓子折りを持って謝りに行くのは、クレーム対応の最終手段に近い。
店長とはいえ私の一存ではできず、本社の許可が必要だ。
「大きな問題になるかもと思っていたのですが、最悪の展開ですね」
「そうね。もしかすると本社のカスタマーセンターから応援が来るかも」
各店舗の問題は、その店舗で解決するのが決まりだ。
でも、対応が長引いたり、悪質なクレームで通常業務に支障が出ると判断された場合は、本社のカスタマーセンターがそれを請け負うことになっている。
ちなみにカスタマーセンターは最近名称を変えたばかりで、それまではお客様相談室だった。私たちの間では苦情処理係という認識だ。
「早野さんにこのことは伝えたんですか?」
「さっき、今までの勤務態度も含めて説明したんだけれど……」
「なにかあったのですか?」
「体調がすぐれないって言って帰っちゃったの」
あぁ、と木村さんが頭を抱える。
それと同時に、早野さんが早退したと伝えたときの、他の販売員の渋面を思い出した。
私が立ち去ったあと、「もっとうまく指導すればいいのに」「立ち回りが悪い」と言っていた。
そう言われるのも、もっともだから反論の余地がない。
「私が不甲斐ないばかりに、皆に迷惑をかけて申し訳ありません」