真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
「そんな。悪いのは早野さんですよ。彼女、今日は早番でしたね」
木村さんはすぐにシフトを確認する。平日なので、早野さんが早退してもなんとかなるだろう。彼女もそう判断したようで、ほっと息を吐いた。
「ベテラン揃いですから、大丈夫です。店長は本社とのやり取りを進めてください」
「今日は、時々バックヤードに引っ込むと思うけれど……」
「大丈夫だと思います。忙しくなったら声をかけますね」
木村さんはそう言うと、内扉を開ける。
いつも冷静で感情的にならない彼女には、頭が下がる。
木村さんのほうが店長に相応しいと言われているのも、悔しいけれど納得だ。
それからは、売り場に立ったり本社とのやり取りをしたりした。
謝罪には本社のカスタマーセンターの社員が同行することになり、早野さんは連れていかないと決まった。
彼女を連れていったら、火に油を注ぐかもしれない。
それよりは「教育不足でご迷惑をおかけしたこと」を問題点として、上司の私が謝罪するのが最適だと判断した。
カスタマーセンターの社員が同行するのは、SNSに誹謗中傷があったからだ。
これについては名誉棄損として訴える可能性もある。丸山様がどんな人間か本社としても把握しておきたいとの意向だろう。
丸山様の連絡先は、カスタマーカードをいただいていたので把握している。
これはご購入された方はもちろん、ご購入を検討されているお客様にも同意があればご記入いただいている。
そこにある電話番号に連絡したところ忙しいらしく、「一ヶ月後の第二土曜、四時に来い」と簡潔に言われた。
電話口でまた罵られるかと思っていただけにちょっと拍子抜けだ。
でもその代わりに会ったときの怒りが大きそうで、頭が痛い。
「店長、もう四時を過ぎていますが、お昼がまだですよね」
井上さんが声をかけてくれる。
数時間後には早番が帰る時間だから、外に出るなら今のタイミングだ。
「売り場はどう?」
「小雨が降ってきたせいか、客足が途絶えました。今なら大丈夫です」
「ありがとう。では急いで食べてくるわ」
売り場を覗くと、お客様は男女の一組だけ。
これなら大丈夫だろうと更衣室に行って鞄を手にする。
あまりゆっくりできないし、コンビニで適当に買って更衣室で食べようかな、そんなことを考えながら信号待ちをしていると、道路の反対側に見知った顔を見つけた。
「隼人くん?」
お店に立つときは、白シャツに黒のエプロン、カーキ色のスラックスといつも服装が同じ。
だからTシャツにデニムというラフな服装に、一瞬別人かと思ったけれど、ふわふわのくせ毛風パーマは間違いなく隼人くんだ。
日本橋になんの用事があるのだろうと目で追っていると、隼人くんの傍にいた女性が折りたたみ傘を広げた。そうして隼人くんの腕を引っ張る。
隼人くんは彼女から傘を受け取ると、女性が雨に濡れないよう傘を傾けながら差した。
ふたりが見つめ合い、笑う。
彼女がなにか言うと、隼人くんは照れたように顔を赤くして首を振る。
それを彼女が揶揄うと、まいったなという風に首の後ろを搔いた。
仲睦まじい姿に、心がぎしっと軋む。
――もう少し香帆さんに踏み込みたい。
そう言ってくれたのに。隼人くんは誰にでもああいう風に接しているのかもしれない。
そんな人ではないと思いたい。でも、信じていた悠磨に裏切られ、私は自分の人を見る目に自信が持てない。
男の人なら、浮気のひとつぐらいあるわよ。
お母さんの言葉が、脳裏に浮かぶ。あのときは聞けなかったけれど、お父さんも浮気をしたことがあるのだろうか。
木村さんはすぐにシフトを確認する。平日なので、早野さんが早退してもなんとかなるだろう。彼女もそう判断したようで、ほっと息を吐いた。
「ベテラン揃いですから、大丈夫です。店長は本社とのやり取りを進めてください」
「今日は、時々バックヤードに引っ込むと思うけれど……」
「大丈夫だと思います。忙しくなったら声をかけますね」
木村さんはそう言うと、内扉を開ける。
いつも冷静で感情的にならない彼女には、頭が下がる。
木村さんのほうが店長に相応しいと言われているのも、悔しいけれど納得だ。
それからは、売り場に立ったり本社とのやり取りをしたりした。
謝罪には本社のカスタマーセンターの社員が同行することになり、早野さんは連れていかないと決まった。
彼女を連れていったら、火に油を注ぐかもしれない。
それよりは「教育不足でご迷惑をおかけしたこと」を問題点として、上司の私が謝罪するのが最適だと判断した。
カスタマーセンターの社員が同行するのは、SNSに誹謗中傷があったからだ。
これについては名誉棄損として訴える可能性もある。丸山様がどんな人間か本社としても把握しておきたいとの意向だろう。
丸山様の連絡先は、カスタマーカードをいただいていたので把握している。
これはご購入された方はもちろん、ご購入を検討されているお客様にも同意があればご記入いただいている。
そこにある電話番号に連絡したところ忙しいらしく、「一ヶ月後の第二土曜、四時に来い」と簡潔に言われた。
電話口でまた罵られるかと思っていただけにちょっと拍子抜けだ。
でもその代わりに会ったときの怒りが大きそうで、頭が痛い。
「店長、もう四時を過ぎていますが、お昼がまだですよね」
井上さんが声をかけてくれる。
数時間後には早番が帰る時間だから、外に出るなら今のタイミングだ。
「売り場はどう?」
「小雨が降ってきたせいか、客足が途絶えました。今なら大丈夫です」
「ありがとう。では急いで食べてくるわ」
売り場を覗くと、お客様は男女の一組だけ。
これなら大丈夫だろうと更衣室に行って鞄を手にする。
あまりゆっくりできないし、コンビニで適当に買って更衣室で食べようかな、そんなことを考えながら信号待ちをしていると、道路の反対側に見知った顔を見つけた。
「隼人くん?」
お店に立つときは、白シャツに黒のエプロン、カーキ色のスラックスといつも服装が同じ。
だからTシャツにデニムというラフな服装に、一瞬別人かと思ったけれど、ふわふわのくせ毛風パーマは間違いなく隼人くんだ。
日本橋になんの用事があるのだろうと目で追っていると、隼人くんの傍にいた女性が折りたたみ傘を広げた。そうして隼人くんの腕を引っ張る。
隼人くんは彼女から傘を受け取ると、女性が雨に濡れないよう傘を傾けながら差した。
ふたりが見つめ合い、笑う。
彼女がなにか言うと、隼人くんは照れたように顔を赤くして首を振る。
それを彼女が揶揄うと、まいったなという風に首の後ろを搔いた。
仲睦まじい姿に、心がぎしっと軋む。
――もう少し香帆さんに踏み込みたい。
そう言ってくれたのに。隼人くんは誰にでもああいう風に接しているのかもしれない。
そんな人ではないと思いたい。でも、信じていた悠磨に裏切られ、私は自分の人を見る目に自信が持てない。
男の人なら、浮気のひとつぐらいあるわよ。
お母さんの言葉が、脳裏に浮かぶ。あのときは聞けなかったけれど、お父さんも浮気をしたことがあるのだろうか。