真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 世の中では「浮気なんて」と言われるぐらい、ありふれた出来事なのだとしたら、やっぱり悠磨を許せない私が間違っているのかもしれない。
 隼人くんの姿が滲んで見えた。
 私は横断歩道を渡らずに、そのまままっすぐ進む。その方向にだってコンビニはある。
 だけれど、コンビニの前で私の足は止まってしまった。
 あっちがダメなら、こっちがある。
 そんな風に、恋愛する相手を変えるのが正しいのだろうか。
 それとも、浮気なんてよくあることとすべてを許して、悠磨とやり直すのが正しいのだろうか。
 分かっている。これは正しいとか間違っているとかの問題ではない。答えなんてないんだ。
 でも、選択肢もあるからこそ、なにを選んだらいいか分からない。
 雨が強まる中、私はすっかり自分の気持ちを見失ってしまった。

 隼人くんを日本橋で見かけてから二週間が経つ。
 母からは顔を合わせるたびに悠磨とは仲直りをしたかと聞かれる。だから最近、夕食は外ですませて帰るようになった。
 TUKUYOMIにも行っていない。
 どういう顔をして会えばいいか分からず、隼人くんからの連絡にも忙しいからと言い訳をしてばかりだ。
「香帆、お待たせ」
 今夜はロータリーの近くにあるファミリーレストランで、若菜と待ち合わせをした。
 時間は十時過ぎ。販売職はシフト制で休みも不規則だけれど、その代わり同じくシフト制の若菜とは時間が合いやすい。
「全然待ってないよ。時間通り。今日の勤務は?」
「日勤だったから五時には終わった。見たかったドラマをいっき見していたら、約束の時間に遅れそうになっちゃった」
 ふたりでメニューを覗き、若菜は香味野菜がたっぷりのった油淋鶏、私はオムライスを選ぶ。それからふたりで食べようと、夏野菜のサラダとドリンクバーも頼んだ。
 ドリンクを入れて席に戻ると、若菜は先にきたサラダを取り分けてくれていた。
「ありがとう」
「駅前なんだから、もっとお洒落なお店が欲しいよね」
「たしかに。このお店、高校生のときから利用している」
 ある意味、ここもいきつけなのかもしれない。
 料理が運ばれてくると、若菜はさっそくなにがあったのかと聞いてきた。
 オムライスを口に運びながら、悠磨が突然家に来て、彼女の妊娠が嘘だからよりを戻したいと言われたこと、さらに隼人くんについて話した。
 そうしてスマホの画面を若菜に見せる。
画面には悠磨から送られた文章がずらっと並んでいた。
人からもらった文章を見せるのはマナー違反だけれど、ひとりで抱えるには内容が重すぎる。
「これっていわゆる『ロミオメール』ってやつじゃない。うわっ、実在したんだ」
「そうだよね。もう正直、引いちゃって」
『俺には香帆しかいない』『俺は騙されていたんだ』『俺と別れたら後悔する』『香帆はまだ俺を好きだろう。意地を張らなくてもいい』などなど。
 これが一日に十数通も送られてくるから、いい迷惑だ。
「書かれている文章、気持ちがいいぐらい『俺』中心だね」
「あー。言われてみればそうかも」
「気がつかなかったの?」
「なんかもう、深く考えたくなくて」
 でも若菜に指摘されもう一度読み返すと、たしかにすべてが「俺」だった。
 すべて自己中心の解釈で、私の気持ちに寄りそう言葉はひとつもない。
「ここまでくると、むしろ清々しいかも」
 香帆が呆れるようにため息を吐く。
「ずっと違和感や、もやもやを感じていたんだけれど、原因はそれだったんだ」
『俺』視点でしか送られてこないメール。
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