真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
「そうだね。それに、私の親のように正しいって思って選んだ道が間違っていた、なんてこともあるよ。だから、大事なのは自分の気持ちじゃないかな。あとは自力で生きていける力は必須。それがあれば、人生やり直せる。なんとかなるっていうのが私の持論」
 若菜はそう言うと、「ちょっと語り過ぎた」と照れ笑いをした。
「あくまでも私の考えだからね。香帆は香帆のやりたいようにしたらいいよ。私はいつでも応援するから」
「うわっ、なんかアオハルっぽいせりふ。ありがとう」
「もうすぐ三十歳なのにねぇ」
「ねぇ。あの頃から私たち、なにも成長していないよ」
 口ではそう言ったけれど、学生服を着てドリンクバーで何時間も粘っていたときから、随分と変わった。
 ただ好きってだけで恋愛できたあの頃が眩しい。
 結婚や仕事、家庭といろんな問題があると知っているから、余計に悩んでしまう。
 そうして「こうするのが正しい」「そんな考えは子供じみている」と大人になったようなセリフを言って、諦めるのがいつの間にか癖になった。
「とにかく、一度隼人くんと話をしてみたら? もしくはとりあえず付き合っちゃうとか」
「もう、私がそういう『とりあえず』ができないって知っているでしょう?」
 付き合うのは、きちんと好きになってからでないと無理だ。
 世の中には、『ちょっと気になる』ぐらいの感情で始まる交際があるのは知っている。
 一度そんな風に始まった恋もあったけれど、自分の気持ちが彼の気持ちに追いつかずうまくいかなかった。
相手のことも傷つけてしまったから、それ以降はきちんと好きだと自覚するまで付き合わないと決めている。
「そういえば、隼人くんに結婚願望はあるの? たしか私たちの三歳年下だよね」
「うーん。今は自分の生活基盤を築くので精いっぱいな気がする」
「結婚を前提とした付き合いがすべてではないけれど、香帆は結婚願望があるから、そうなると付き合いも躊躇われるようね」
 そうなんだぁ、と私は頭を抱える。
 結婚を前提としない付き合いがいい加減なものだなんて、思ってはいない。
 だけれど、この年で結婚に繋がらない可能性のある恋に手を出すのは、勇気がいる。
「……あっ、ちょっとごめん」
 会話の途中でスマホの画面が光る。メッセージを見ると、隼人くんからだ。
「ハイビスカスゼリーの試作品ができたみたい」
「今から試食に行ってもいいか、聞いてごらん?」
「えー、今から? ハードル高くない?」
 時間を見ると、十一時半だった。
 迷う私を、若菜が胡乱な目で見て来る。
「でも、隼人くんが香帆に来て欲しくて連絡してきたの、分かってるでしょう?」
「まぁ、それは」
 告白めいた発言をしたあと、突然私がTUKUYOMIに行かなくなったのだから、きっとすごく不安な気持ちでいるだろう。
 申し訳ないことをしている自覚はある。
「お願い! 若菜も一緒に来て!」
 拝むように手を合わせると、「高校生のガキじゃないんだから」と怒られた。
 でもすぐに「今回だけだよ」と了承してくれる。
「ありがとう、ここは私がおごるね」
「いいよ。その代わりハーブティー代はお願い」
「もちろん」
 答えながら、スマホを鞄にしまう。
若菜は鞄を手にした。と、ふいに辺りを見回す。
「どうしたの?」
「うーん、なんか視線を感じて」
「知り合いがいるとか?」
 地元のファミリーレストランだから、同級生がいてもおかしくない。
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