真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 若菜はさっそく飲みかけのハーブティーに、レモン汁を入れる。「本当に変わった」と喜びスマホを取り出した。どうやら写真を撮るらしい。
「南国って感じでどれも素敵! でも、ハイビスカスティの一番の特徴は色の変化だから、三層になっているゼリーがいいんじゃないかな」
 レッドルビーとピンク色のハイビスカスゼリーの上に、寒天や生クリームを重ねたものを指差すと、隼人くんも「やっぱりそうだよな」と頷いた。
 さっそく試食を始めた私たちに、隼人くんがそわそわと聞いてくる。
「寒天と生クリーム、どっちも捨てがたいんだよな。香帆さんはどう思う?」
「そうね。ハイビスカスティは酸味が強いから、生クリームをトッピングしたゼリーのほうが食べやすく感じたかな」
「なるほど。若菜さんはどう?」
「私も香帆と同じ意見。寒天も美味しいけれど、生クリームのほうが好きかな」
 私と若菜の意見に隼人くんは「そうかぁ」と言うと、自分の分のゼリーを冷蔵庫から出してきた。
「たしかに言われてみればそうかも」
 ふたつを食べ比べると、隼人くんは生クリームの乗ったゼリーを手にした。
 そこでふと、思いつく。
「隼人くん、ちょっと待っていて」
 カウンターの入口に一番近い場所に、ミントの鉢植が置かれている。
 私はそこから一枚ちぎると、生クリームの上に乗せた。
「どう? 赤と白と緑、綺麗な配色だと思うんだけれど」
「うわっ、さらに夏らしさが増した。それじゃ、ハイビスカスゼリーはこれで決定だ」
 新メニューが決定したところで、お礼にと隼人くんはハーブ酒を三人分用意してくれた。そうして、私の隣に座る。
 隼人くんが飲まないのは、私をバイクで送るためかもしれない。
そんな優しさを、今日は素直に喜べない。
 加藤くんは聞き上手で、私と若菜の仕事や学生時代の思い出に相づちをしつつ、ときには先を促し場を盛り上げてくれる。
 私も若菜も、お酒の勢いを借りてついつい盛り上がってしまった。
 そんななか、若菜がふいに隼人くんに話を振った。
「隼人くんも、加藤くんも二十六歳なんだよね。結婚なんてまだまだって感じ?」
 いきなり踏み込んだ質問に、ぎょっとする。でも、ふたりに気にする素振りはなく、軽く首を傾げた。
「俺はもともと結婚願望がないからな。ま、しないと決めたわけじゃないけれど」
 と加藤くんがグラスを揺らしながら答える。
 少し緊張しながら隼人くんを見ると、こちらは難しそうな顔をしていた。
「今は自分の生活基盤を立て直すので精いっぱいだけれど、だからと言って結婚願望がないわけじゃない」
「まだ、そこまで考えられないかぁ」
 若菜の軽い口調に、隼人くんはちょっとだけムッとした表情を見せた。
「そうじゃなくて。今すぐは無理ってだけで、軽い付き合いを望んでいるわけじゃないよ。そもそも結婚前提じゃない付き合いって、言い変えればいつか別れる可能性があるってことだろう。別れるかもしれない相手と、付き合うつもりはない」
 きっぱりと言い切った隼人くんに、若菜は「おぉ」と目を丸くする。
 ついでにと小さく拍手もした。それには隼人くんも困った顔で照れ笑いをする。
「あっ、そろそろ終電の時間だ」
「本当、バスも終わっちゃう」
 加藤くんと若菜が同時に時計を見る。若菜は鞄にスマホを入れ、帰り支度を始めた。
「若菜さん、駅まで一緒だから送るよ」
「ありがとう。じゃ、香帆はまだ残るんでしょう」
 私も終バスが、と腰を浮かしたところで、若菜に肩を押さえられた。
 再び座った私に若菜は手を振ると、加藤くんと一緒に店を出て行く。
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