真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
マンションはオートロックで、部屋番号を押すと扉が開く。
そのままエレベーターで三階の一番手前の部屋へ向かった。
謝罪のポイントとしては、部下がお客様のプライバシーに関わることを不用意に口にしてしまったことのみ、誠心誠意謝罪する。
そのあとに起こった婚約の破談や、すでに男性が仕事を辞めていたことについては「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」の一点張りで通す。
間違っても「婚約を破断にしてしまい申し訳あません」と言わないよう、山岸さんから念を押された。
今後、SNSでの誹謗中傷も合わせて、下手をすると裁判になる可能性がある。
その際、メゾン・エテルネルとしては「婚約の破談は当社の責任ではない」と主張するそうだ。
だからここでは、婚約破談についてはあくまでお客様の問題で、不快な思いをさせた点についてのみ謝ることになっている。
七年働いているから、謝罪は何度もした。でも、こうやってお客様のところへ菓子折りを持って伺うのは初めてだ。
「では、インターフォンを押します」
私が言うと、山岸さんが頷く。ピンポーンという機械音のあと、数秒して扉が開いた。
「中に入ってくれ」
「お邪魔いたします」
玄関先で怒鳴られる可能性もあると思っていたが、周囲の目を気にするぐらいには冷静なようだ。
神妙な顔で私が先に、次に山岸さんが入る。山岸さんはドアが少しだけ開くような位置で、立ち止まった。
彼の姿に、丸山様が一瞬驚いた表情をする。軽く視線を動かせたあと、私を見下ろした。
「それで、どうやって責任を取ってくれるんだ?」
「今回は私の部下の不手際で、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。こちら、お詫びの品でございます」
両手で袋を差し出す。突っ返されるか、もしくは手を振り払われるか。そう身構えていたけれど、丸山様はあっさりと紙袋を受け取った。
「こんなものが、俺の人生を台無しにした謝罪になると思っているのか?」
「申し訳ございません」
「今時、どの企業でも個人情報を守るのは当たり前だ。お前の会社はそんなこともできないのか?」
ひたすら罵倒され続け、私は頭を下げる。
とにかく怒りを全部出させて、丸山様を落ち着かせなくては。
そう思っていたけれど、怒りは一向に収まらない。
ただ、さすがに言葉は尽きてきたようで、無言の時間が増えた。
帰っていいと言われるまで、帰宅することはできない。終わりの見えないやり取りに、突破口はないかと焦ってしまう。
すると、ずっと黙っていた山岸さんが一歩前に出た。
「申し遅れましたが、私、カスタマーセンターの山岸と申します。この度は弊社の従業員の不手際により、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。今後、このようなことが起きないよう、従業員一同に周知徹底をし、社内教育を強化いたす所存です」
「今更教育したって遅いんだよ。それより、補償はどうした。お前たちのせいで、俺の人生は無茶苦茶だ。こっちは訴えてもいいんだぞ。第一謝りに来ておいてその態度はなんだ。そこの女、お前の部下の不始末だろう。土下座ぐらいしろ」
丸山様はそう言って、私の肩を掴んで無理やり膝を折らせようとする。
恐怖で身体を強張らせていると、山岸さんが私の腕を引いて背中に庇ってくれた。
「申し訳ございませんが、土下座は致しかねます。また、丸山様が訴えたいのでございましたら、私共に止める権利はございません」
山岸さんの言葉に、丸山様の動きが止まる。
それを見逃さずに、山岸さんはさらに言葉を続けた。
そのままエレベーターで三階の一番手前の部屋へ向かった。
謝罪のポイントとしては、部下がお客様のプライバシーに関わることを不用意に口にしてしまったことのみ、誠心誠意謝罪する。
そのあとに起こった婚約の破談や、すでに男性が仕事を辞めていたことについては「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」の一点張りで通す。
間違っても「婚約を破断にしてしまい申し訳あません」と言わないよう、山岸さんから念を押された。
今後、SNSでの誹謗中傷も合わせて、下手をすると裁判になる可能性がある。
その際、メゾン・エテルネルとしては「婚約の破談は当社の責任ではない」と主張するそうだ。
だからここでは、婚約破談についてはあくまでお客様の問題で、不快な思いをさせた点についてのみ謝ることになっている。
七年働いているから、謝罪は何度もした。でも、こうやってお客様のところへ菓子折りを持って伺うのは初めてだ。
「では、インターフォンを押します」
私が言うと、山岸さんが頷く。ピンポーンという機械音のあと、数秒して扉が開いた。
「中に入ってくれ」
「お邪魔いたします」
玄関先で怒鳴られる可能性もあると思っていたが、周囲の目を気にするぐらいには冷静なようだ。
神妙な顔で私が先に、次に山岸さんが入る。山岸さんはドアが少しだけ開くような位置で、立ち止まった。
彼の姿に、丸山様が一瞬驚いた表情をする。軽く視線を動かせたあと、私を見下ろした。
「それで、どうやって責任を取ってくれるんだ?」
「今回は私の部下の不手際で、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。こちら、お詫びの品でございます」
両手で袋を差し出す。突っ返されるか、もしくは手を振り払われるか。そう身構えていたけれど、丸山様はあっさりと紙袋を受け取った。
「こんなものが、俺の人生を台無しにした謝罪になると思っているのか?」
「申し訳ございません」
「今時、どの企業でも個人情報を守るのは当たり前だ。お前の会社はそんなこともできないのか?」
ひたすら罵倒され続け、私は頭を下げる。
とにかく怒りを全部出させて、丸山様を落ち着かせなくては。
そう思っていたけれど、怒りは一向に収まらない。
ただ、さすがに言葉は尽きてきたようで、無言の時間が増えた。
帰っていいと言われるまで、帰宅することはできない。終わりの見えないやり取りに、突破口はないかと焦ってしまう。
すると、ずっと黙っていた山岸さんが一歩前に出た。
「申し遅れましたが、私、カスタマーセンターの山岸と申します。この度は弊社の従業員の不手際により、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。今後、このようなことが起きないよう、従業員一同に周知徹底をし、社内教育を強化いたす所存です」
「今更教育したって遅いんだよ。それより、補償はどうした。お前たちのせいで、俺の人生は無茶苦茶だ。こっちは訴えてもいいんだぞ。第一謝りに来ておいてその態度はなんだ。そこの女、お前の部下の不始末だろう。土下座ぐらいしろ」
丸山様はそう言って、私の肩を掴んで無理やり膝を折らせようとする。
恐怖で身体を強張らせていると、山岸さんが私の腕を引いて背中に庇ってくれた。
「申し訳ございませんが、土下座は致しかねます。また、丸山様が訴えたいのでございましたら、私共に止める権利はございません」
山岸さんの言葉に、丸山様の動きが止まる。
それを見逃さずに、山岸さんはさらに言葉を続けた。